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【立命館教員インタビュー特集】第5回:ナサニエル・プレストン先生

ナサニエル・プレストン先生

#文学部 #英米文学 #日本文学

本学文学部で、英米文学を専門として教壇に立つナサニエル・プレストン(Nathaniel Preston)先生。アメリカで博士号を取得後、2012年に本学に着任した。現在は、英米文学のみならず、日本文学をはじめとするアジア圏の作品にも着目するなど幅広い研究を行っている。本記事では、プレストン先生の研究テーマや、多様な文化に触れたことで感じた文学の魅力について伺う。

──文学を専攻したきっかけについて教えてください。

幼少期は、宇宙を研究する物理学者になりたいと考えていました。ですが、高校生の時、友人に勧められ『Zen and the Art of Motorcycle Maintenance(禅とオートバイ修理技術)』という本を読んだことで、禅というものに関心を持つようになりました。特に、タイトルに「Zen」と入っているにも関わらず、内容では禅についてほとんど触れられていないというところが興味深い点です。

禅について調べるためにさまざまな本を読みましたが、本を読んで簡単に理解できるようなものではないのだと分かりました。同時期に、英米文学の授業を受講していたこともあり、次第に人間の心というものが非常に深く重要なものであると考えるようになりました。客観的に確かに存在している宇宙とは対照的な、主観的で矛盾だらけの人間の心に引かれていきました。

〇『Zen and the Art of Motorcycle Maintenance』(禅とオートバイ修理技術)

アメリカの作家であるロバート・M. パーシグ(Robert M. Pirsig, 1928-2017)が1974年に出版した作品。大学教師だった著者自身が、失った記憶を求め大陸横断の旅に出た体験について語られている。

──文学のどのような点が魅力だと思いますか。

人間の心について探究する分野はいくつかありますが、人間ならではの矛盾が描写されているという点で、文学は非常に考えさせられる分野だと思います。さらに、文学は独立した分野でありながらも、他のさまざまな事柄につながっていると言えます。

例えば、文学史について学んでいると、文学には歴史の流れやその時代の芸術、哲学などが反映されていることが見えてくると思います。歴史や芸術、哲学には文学の影響を受けている点もあるし、反対に文学もそれらを反映している。お互いに影響し合っているところが興味深い点です。

また、文学作品について、知性を働かせて分析し理解することはもちろん大切なことですが、自分の感性でその作品を体感することも同様に大切なことです。論理的にも、感覚的にも、さまざまな観点で考えられる点が魅力的だと感じます。

──研究を行っている作品について教えてください。

最近は、ルース・オゼキの『A Tale for the Time Being』について研究しています。この作家の興味深いところは、小説家でありながら、曹洞宗の僧侶でもあるという点です。この作品は、現代の日本文化を、道元禅師の哲学を通して見つめています。さらに、量子力学の分野にも関わっていて、こうしたさまざまな分野にまたがっている点が、文学の面白さを反映していると思います。

〇ルース・オゼキ(Ruth Ozeki, 1956-)

アメリカの作家で、日本への滞在経験がある。デビュー作は『イヤー・オブ・ミート』。

──日本文学についても研究されているとのことですが、日本文学に触れるようになったきっかけはなんでしょうか。

日本語を勉強してきたことがきっかけで、日本文学にも触れるようになりました。禅に興味を持っていたため、より深く禅について考えたいと思い、大学1回生の夏に半年ほど日本に留学しました。留学中は、毎朝5時半に起きて禅寺に行き、座禅を組んでいました。

その後、帰国して日本語の勉強を続けてはいましたが、次第にほぼ使うことがなくなってしまって。日本語で会話することはできても、読み書きができない自分にズレを感じるようになり、日本語の読み書きを再度勉強しようと思いました。

最初は漫画を通して勉強していましたが、レベルを上げて小説を日本語で読むことにも挑戦し始めました。英語に翻訳するとなかなか伝わらない、日本語ならではの独特な雰囲気や魅力を追求するのは、自分にとって新しい世界を発見するような面白さがありました。

──実際に日本に来てから、新たに発見したことはありますか。

アメリカにいる時は、日本について、異なる文化を持つかけ離れた世界のような印象がありました。ですが、留学中に「禅寺の畳の上で座禅を組むことは、アメリカの自分の寝室で座禅を組むことと同じだ」と気付いたことが大きな発見になりました。日本に対してエキゾチック(異国的)な印象を持っていましたが、実際には自分と同じような人たちが、自分と同じように生活している。自分の想像とは違う、リアルな生活を体感できたことは非常に良い経験になりました。

──大学卒業後、本学に着任するまで、どのように過ごされましたか。

大学卒業後、友人の会社を手伝ったり、地元の学校で代理の教員になったりと、2年間ほどさまざまな経験を積みました。その経験を通し、改めて自分は研究の道に進みたいのだと気付いたため、自分の家の近くにある州立大学の修士課程に進むことを決めました。

より研究を深めるために、テネシー大学で博士課程に進みました。博士号取得後、テネシー大学のロースクールでライティングスペシャリスト(Writing Specialist)として学生を指導しながら、英語学科で講師として働きました。10年ほど働いた後、リーマンショックなど当時の情勢もあり、違うことを始める良い時期であると判断して、日本へ行くことを決めました。最初の3年間は関東の大学で講師をして、その後本学に着任しました。

──最後に、学生へのメッセージをお願いします。

最初に何か目標を定めても、それに向かう途中で新たな道を発見して、その道の方が合っているということもあり得ます。柔軟に自分の道を考えるのが良いと思います。(竹内)

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