海神

海神DIGITAL「じゃあ○○しなきゃいい」

立命館大学新聞のコラム欄「海神(わだつみ)」。記者が日々の思いを語ります。

同窓会に卒業アルバムを持ってきてほしくない。SNS(交流サイト)で話題になった声がワイドショーで取り上げられていた。それを見た中学生の私は共感できなかった。「じゃあ行かなきゃいいじゃん」。そうつぶやくと、「そんなこと言う子だと思わなかった」と母に言われた。悪意を込めたわけではなく、理解できなかっただけなのに。母の言葉が引っかかった。

高校卒業後、生まれ育った東京を離れ、京都で暮らし始めた。東京の店ばかり映るテレビを見て、自分が中心から外れた気がした。あらゆるものが東京で、中央で行われ、中に入れなければ周縁に追いやられる。

マジョリティーとは単に数が多い方ではなく、現状を「気にせずに済む側の人」だ。参加したワークショップで聞き、腑に落ちた。自分のマイノリティー性は「気になる」から痛いほどに突き付けられる一方で、マジョリティー性は「気にならない」から自覚しにくい。

面接官が全員男性だったら、女性の私は気になって仕方がない。しかし日本で生きる上で日本国籍を持っている特権性には気付かず、全員に選挙権がある前提で話を振る。

自覚なきマジョリティー性は、時に誰かを傷つけているかもしれない。自分は気にならないからと、誰かの思いを傷つけていないか。勇気ある声に、「じゃあ〇〇しなきゃいい」と言い放っていないか。気にならないことにこそ、丁寧に向き合う人でありたい。母の言葉の意味が少し分かった気がした。

(井本)

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