本学グローバル・イノベーション研究機構の神松幸弘(こうまつゆきひろ)助教が、かつて日本で使用されていた甘味料「甘葛(あまづら)」の味を復元した。その際制作された飴とシロップは、講談社のクラウドファンディング「ブルーバックスアウトリーチ」の返礼品である。
あまづらとは、奈良時代から室町時代にかけて日本で使用されていた甘味料である。当時は水飴と共に使われた希少な甘味料であったが、鎌倉時代に砂糖が広く普及すると歴史からその姿を消した。代表的なものでは『枕草子』や『今昔物語集』『宇治拾遺物語』内の説話をもとにした芥川龍之介の『芋粥』に描写がみられる。
既存の復元事例がツタを原料としたもののみであることに対して、本研究は実際に使用されていた原料が何であるかという点まで遡った。国文学研究資料館(東京都立川市)研究部の入口敦志(いりぐちあつし)教授の協力により、江戸時代に行われた植物の形態や産地に関する学問である本草学の古文書を解読し、あまづらの実態を探った。
その結果、植物の樹液が原料であることが判明し、実際に樹液を集めて検証を行った。仮説として挙げられた植物はおよそ30種。生育地の関係から、樹液の採取を行った山は奈良県、和歌山県を中心に北海道から九州地方まで広範囲に及んだ。これは、当時あまづらが使用されていた地域の広さを鑑みた結果でもある。
「甘みがありその主成分が糖である」、「粘性がある」といった古文書の描写にあるあまづらの特徴や科学的な成分分析によって採取した樹液を煮詰め、精査した。その結果、あまづらであると判断された樹液は5種残り、そのもとはどれも日本に古来から生育するブドウ科の植物であることが判明した。これは本草学の研究結果と照らしても一致する。
製品を大量に生産するにあたっては、大文字飴本舗(京都市右京区)の協力を仰いだ。研究によって復元された天然のあまづらのうち「ツタ樹液」「アマヅル樹液」「アマヅル果実」を原料とするものの味をもとに、人工的にあまづらの味を再現することに成功した。飴の状態や温度によっても味に変化があるため、さまざまな糖類を使って試行錯誤が繰り返されたという。
今後は、あまづらが使われていたと考えられる菓子や香など嗜好品の再現も試みる。それぞれ制作の段階で専門家や技術者に協力を仰ぐ予定だ。歴史上、物語上に登場する品々の再現によって、歴史学や古典文学の分野への貢献が期待できるという。