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イノベーションジャパン2021特集①

本学は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する「イノベーションジャパン2021~大学見本市Online」に出展した。これは、全国の大学等機関がもつ技術シーズを集め、創出された研究成果の社会還元や技術移転の促進、産学連携支援のために2004年から行われている国内最大規模の産学連携マッチングイベントである。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、今年はオンラインで展示やプレゼンが行われた。また8月23日から9月17日までは公式ホームページにて一般向けに無料で公開された。
本イベントには6件、本学の研究内容が採択された。

上記から5件の研究内容について2回にわたって取り上げる。第1回となる今回は、下ノ村和弘教授、小林大造准教授の研究内容について取り上げる。

【下ノ村 和弘教授】フライングウォッシャー:ATD搭載飛行ロボットによる高所高圧洗浄

下ノ村教授は、ドローンの応用研究を行っている。特にインフラ設備の点検のような高所作業に適したドローンを開発している。
今回発表したのは「フライングウォッシャー」という、高圧洗浄機が装備されたドローンだ。高所での水を用いる作業を可能にする。

オンラインで取材に応じる下ノ村教授

ドローンは、上向きの力である推力と下向きの力である重力の上下の動きしかできないようなつくりになっている。そのため横向きに動かすには新たに別の力が必要となる。普通は機体自体を傾けないと横向きの動きを生み出すことができなかった。
このように洗浄作業を行うドローンの場合、機体が傾くことで水の噴射方向が安定せず作業に時間がかかったり、機体自体の操縦が難しくなったりすることが問題視されていた。

そこで下ノ村教授が開発したのが「ATD」というシステムだ。ATDとはAdd-on Planar Translational Driving System(後付け可能な水平並進駆動システム)の略である。水平方向についていた従来のドローンのプロペラに加えて、ATD機能が搭載されたY字型のプロペラを設置することで、機体を傾けることなく360度どの向きにも移動ができることを可能にした。

主な活用例として、建築物や建設工事現場、高所作業車が進入できない場所における高所高圧洗浄作業の自動化・効率化がある。これまで人が行っていた作業を機械が担うことで高所作業での事故を減らすことも期待できる。

既存のドローンにこのATD機能を後付けという形で搭載することができるため、ドローンの機能拡張に一躍を担う。他企業との連携の可能性も生まれた。しかしプロペラの数が増えることでバッテリーの消費が早くなってしまうのが課題点だ。

下ノ村教授は「イノベーションジャパンは学外の人、特に企業の方に自分の研究を見てもらえるチャンス。どんな視点で見てもらえるかを知ることができたので貴重な経験だった」と採択に対する所感を述べた。

【小林 大造准教授】軽く、柔らかく視界に近い波長特性をもつ光センサ

小林准教授がイノベーションジャパン2021への出展を決めたのは、学部の職員から薦められたのがきっかけだった。「自分がいる研究室は、できて5年目の若い研究室。1年目から声をかけていただいていたが、ようやく学外に発表できる内容としてまとまったものができたと感じ、勧めてくださった方のためにという思いや、本学の研究を社会へ広げ、本学に貢献したいという思いから今回の出展を決めた」と経緯を語った。

オンラインで取材に応じる小林准教授

小林准教授が発表したのは光センサである。光センサとは光を受け取り、その強弱を判断するための機器のことだ。光の強弱は、その光から変換された電気の量と比例する。太陽の光を受けてそこから電気になるエネルギーを汲み取る太陽電池の原理と同じである。
今回出展した研究内容は、光の明るさを電流値で読み取ることができる光センサについて。電流値の大きさが光の強弱の判断になる。

この光センサにはセレン(Se)が使われている。セレンはもともと、カメラの露出計に用いられていた。弱い光でも高感度の状態で検出できることから、次世代のハイビジョンとして注目されている。
セレンには、吸収する光の波長が、室内灯がもつ波長とほとんど同じであるという特徴がある。これにより、人間が目で感じる光の感度に限りなく近いものになる。安価であり、国内で採れるという安定性も強みだ。

また、センサを基盤の上に作るとき、普通は500℃から1000℃の高温である必要があるが、その場合、高熱に耐えられる基盤を使用する必要がある。しかしセレンを使った光センサは200℃ほどの熱で基盤の上に作ることができる。これは、センサを取り付けるための基盤の選択肢が広がり、加工面やサイズ面での融通の利きやすさにつながる。そのためウェアラブル端末などに取り付けることが可能になる。

今回は光センサをフィルムの形状で作成した。セレン自体はもろいため、強化するための加工を施した。この光センサはガラスに近いが、曲げに強い特性をもつ。

応用できる活用例として、室内灯の光から発電ができる照明電池がある。理論上では最大60%が電気エネルギーとして発生するが、現在の世界最高記録は18%ほどであるという。
また、独自のカラーフィルターを開発したことで、光の強弱の識別に加えて、何色の光なのかを検出することが可能になる。

よって、光の色を検出する機器の小型化・軽量化に、セレンを使ったこの光センサが貢献できる。たとえば血液検査の装置や、果物を切らずに行える糖度測定、パルスオキシメーターなど、可能性のある応用場所は多岐にわたる。

小林准教授は「自分たちの想定以上にニーズは至るところにあると思う。それをこれからも開拓していきたい」と今後について語った。
(坂口)

 

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