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新書大賞2020 『ケーキの切れない非行少年たち』第2位

宮口幸治著『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)

 

新書大賞2020が2月10日に発表された。新書大賞とは、書店員や新聞記者など、新書に造詣の深い人たちからの投票によって、1年間に発行された1500冊を超える新書の中から「最高の一冊」を決めるものだ。第13回目を迎える今年は「ケーキの切れない非行少年たち」が第2位に選ばれた。
著者の宮口幸治教授は本学産業社会学部に在籍する。宮口教授は過去に、精神科医として医療少年院に勤務する中で、認知能力の低さから、勉強や人間関係に問題を抱えている非行少年が大勢いることに気づいた。しかし、彼らは知的なハンディキャップを持ち苦しんできたにも関わらず、現在の基準では障害と診断されず、少年院だけでなく、実際の教育現場においても見過ごされてきたという。そんな気付かれない「境界知能」の人々に焦点を当て、教育現場における解決策を提示する当書は、学校関係者をはじめ多くの人々から反響を呼び、発行部数は45万部を突破した。

宮口教授に、入賞のお気持ちと、「境界知能」の問題についてうかがった。

宮口幸治(みやぐちこうじ)
立命館大学産業社会学部教授。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、2016年より現職。困っている子どもたちの支援を行う「日本COG-TR学会」を主宰。医学博士、臨床心理士。

 

—新書大賞に入賞された際のお気持ちをお聞かせください。

—ひょっとしたら一位を取れるかもしれない、授賞式で何を話そうかなと考えていたくらいなので、少し拍子抜けしてしまいました(笑)。

 

—本書では「境界知能」の問題が主に取り上げられていますが、そもそも「境界知能」とはどのようなものでしょうか。

—IQが70から84である人を「境界知能」と呼び、人口の約14%に当たると言われています。
現在の定義ですと、IQが70よりも低いと知的障害であると診断されます(平均は100)。IQが70以上であれば異常はないとされ健常者と同じ扱いを受けますが、「境界知能」である人たちが普通の人たちと同じ生活を送ることはかなりしんどいです。
ICD(国際疾病分類)という、WHOが様々な病気の名前を統一の基準で分類しているものがあります。1965年から1974年の十年間に分類されたICD8の中では、現在の「境界知能」が「境界線精神遅滞」という名前で定義づけられていました。昔は知的障害が「精神遅滞」「精神薄弱」と呼ばれていましたから、WHOでもその10年間だけは「境界知能」の人たちを知的障害として分類していたことになります。しかし、IQが84以下という基準では、あまりにも対象者が多いため、知的障害の基準はIQ69以下に引き下げられました。
障害と診断されれば、必要な福祉や手当を受け取ることができます。「境界知能」とされる方々が、普通の人と同じように生きることはとても大変です。「境界知能」という、気付かれずに苦しんでいる人たちがいるということは、大きな問題です。

 

—教員を目指している学生の方に、お伝えしたいことはありますか。

—知的障害についての知識が不足している教員がたくさんいます。教員免許を取る際に、知的障害に関する授業の単位をとる必要はありませんが、これは大きな問題です。「ひょっとしたら障害があるのではないか」という目で子どもたちを見ることができなければ、知的なハンディキャップで苦しんでいる子どもたちが大勢見過ごされてしまいます。本書でも取り上げていますが、境界知能も含め、知的なハンディキャップのある生徒は1クラスにおよそ5人はいるとされています。その5人の子たちに対する知識がないと、どうやって接すればいいのか、どうやってその子が抱えている問題を解決すればいいのか分からず、先生自身も苦しむことになります。
学校教員を志す方たちには、知的障害に関する知識と、知的なハンディを見極める力の両方を身に付けてほしいです。

 

(波多野)

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