本学古気候学研究センターを中心とするグループは、堆積物から化石花粉を高濃度抽出し、その花粉の放射性炭素年代を測定する技術の実用化に成功した。また1月21日からは同技術を活用したサービス事業「POLARIS」を一般向けにスタート。防災や考古学分野での応用が期待されている。
今回実用化されたのは、セルソーターを用いた花粉化石の高純度抽出と、微量試料の年代測定技術。まずは花粉粒子が含まれている堆積物から、薬品を使って不純物をできるだけ取り除く。続いて溶媒中に拡散した一つひとつの粒子に、レーザーをあてる。すると花粉のみが他の粒子とは違う光り方をするため、セルソーターが花粉を認識すると、静電気でより分けて抽出することができるという。
その後、炭素年代測定は東京大学総合研究博物館にて行われる。東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室の大森貴之特任研究員が新たに開発した技術によって、砂糖の結晶一粒程度の量でも測定が可能となっている。
技術実用化までの流れ
花粉は幅広い堆積物に含まれているものの、含有量が少なく抽出も困難であることから、年代試料として広く用いられてはこなかった。しかし2015年、本学と福井県の間で「年縞を基にした研究等に関する基本協定」が締結される。同協定では、共同で水月湖(福井県若狭町)の年縞(=湖底の特殊な堆積物)に含まれる花粉の抽出・分析を行うことなどを含む年縞研究の推進が目的として掲げられた。
また、研究機能を持った年縞展示施設の建設に伴い、研究環境整備のために福井県がセルソーターを購入。現古気候学研究センター長の中川毅教授が中心となり、セルソーターを用いて花粉化石を高純度抽出する技術の研究が本格的に始まったという。
POLARISとは
中川教授は、POLARISを開始した理由として「この技術に自信があった。この技術を使いたい人が多いことも感覚的に分かったから、みんなで幸せになりましょうという意味で開始した」と語る。本学立命館グローバル・イノベーション研究機構の山田圭太郎助教は、さまざまな人が使用することでデータの信頼性が担保される点や、試料分析の経験が増加する点をサービス公開のメリットとしてあげた。同時に両者は安定した経済基盤を確保し、長期間にわたる研究を遂行していくことの重要性を強調した。
現在、すでに国内外問わず災害科学や防災分野の諸機関からPOLARISに関する問い合わせが来ているという。今後は提携を結ぶオックスフォード大学とも連携し、国際展開も進めていくとした。
取材後記
POLARISという名前は「Pollen Radio Isotope(=花粉の放射性同位体)」の頭文字が由来となっている。中川教授と山田助教は、サービスが幅広い分野で活用されることへ期待を寄せる。導きの星(北極星)との名前どおり、POLARISがさまざまな研究を大きな成果へと導くものになることを願う。(石渡)