本学は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する「イノベーションジャパン2021~大学見本市Online」に出展した。これは、全国の大学等機関がもつ技術シーズを集め、創出された研究成果の社会還元や技術移転の促進、産学連携支援のために2004年から行われている国内最大規模の産学連携マッチングイベントである。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、今年はオンラインで展示やプレゼンが行われた。また8月23日から9月17日までは公式ホームページにて一般向けに無料で公開された。
本イベントには6件、本学の研究内容が採択された。
上記から5件の研究内容について2回にわたって取り上げる。第2回となる今回は、本間睦朗教授、堤治教授、双見京介助教の研究内容について取り上げる。(第1回はこちらから)
【本間 睦朗教授】超小型カメラ付照明による建物施設管理プラットフォームの構築
本間教授が発表したのは「照明に超小型カメラを設置して、光を阻害することなく空間を三次元で捉えることを可能にした」という研究だ。
光と空間の関係については、1952年にリチャード・ケリーが提唱したモダニズム様式が現在まで受け継がれているという。モダニズム様式とは、どんな光で空間を演出するかという「光の主張」よりも「ある空間のなかにどのように光を当てればその空間を生かせるか」というものだ。
さらにその後、建物自体の高さを競うよりも、建物のなかのアメニティを重視する風潮となっていった。そこから照明デザインが発展し、空間の見せ方を重要視する動きが生まれたという。
照明デザインには、光の色温度が関係している。
色温度とは、モノが燃えているときの色を温度で表したものだ。単位は、絶対温度を表すケルビン(K)が用いられる。蛍光灯のような白色の光は約4500K、ろうそくのようなオレンジ色の光は約2500Kで、人工照明は8000Kほどが一般的であるという。
これまでの建築物における光は、空間自体を引き立たせるため「『光源から発せられる光の色温度はできるだけ統一する』というのが暗黙のルールだった」と本間教授は話す。しかし、自然現象のひとつである「朝焼け」から「複数の色温度を使用した光で空間を見せることへの可能性」を見出した。
朝焼けの空はオレンジ色に近い、色温度が低い光があるように見えるが、地表に落ちる光は青色に見える。ここから、複数の色温度が併存する空間も美しく見えることに気づいたという。
この可能性を実現するために、光の明暗調節に加え色温度の調節を同時に行う必要性が出てきた。ここで本間教授が注目したのが、光と、空間を可視化するためのカメラとの関係である。従来の照明機器に取り付けるカメラは、機器からの光を阻害してしまうという側面があったため、カメラの小型化・軽量化を目指した。
さらに本間教授は、カメラ付き照明の機器自体にさまざまなアプリが適用できるようなプラットフォームをつくる構想についても言及した。
「今の世のなかでは新しい技術が目まぐるしく開発されていく。プラットフォームの構築という段階に留めることで、そういった新しい要素を適用できるようにしたい」と語った。
「実際にこれを実現するのは難しいが、実現に向けてどうしていくかをこれからも模索していきたい」と本間教授はこれからを見据えた。
【堤 治教授】ナノ構造制御された架橋微粒子:ソフトロボット、センサー、セキュリティ材料への展開
架橋(かきょう)微粒子とは、架橋高分子を球状にしたもの。架橋高分子は高分子の一種で、高分子をつなげる役割をもつことから「橋を架ける」を意味する「架橋」という名前がつけられている。
架橋高分子を利用してつくったのが「キラル液晶エラストマーフィルム」と呼ばれる、ゴムのような弾性をもつフィルムだ。これには色がついており、フィルムの伸び縮みによって色が変わる。よって色を見るとどれだけ力が働いているかを判断でき、物体にかかる力を簡単に可視化できるものとなる。また、従来は物体の一点にかかる力の強さのみが測定できたが、この素材を用いることによって全体にかかる力の分布を判別できるようになった。
しかし、フィルムは見る角度によって色が変わってしまうことが課題であったため、高分子を球状にすることでどの角度から見ても色が変わって見えないように工夫を凝らした。「口で言うのは簡単だが、これがとても難しい作業だ」と堤教授は苦笑いを浮かべた。
この架橋微粒子は、柔らかいモノを扱うソフトロボットが物質に加わる力の分布の測定や、センサーに応用ができる。
他にもビルや橋の耐震構造、自動車の衝撃の分布など、あらゆる産業において力の可視化にはさまざまな需要があるという。
堤教授は「分子の並び方によって、構造や分子のもつ働き、性質も変わってくる。今までもこれについては研究をしているし、これからももっとしていきたい。今回出展した研究内容がさまざまな場面で使ってもらえればうれしい」とこれからの展望について語った。
【双見 京介助教】目の活動のセンシング用ウェアラブルパーツとアイケア応用
双見助教が発表したのは、目の動きや活動のデータを常時記録できるウェアラブルパーツである。
現在、これは機器としては存在するものの、高額であることからサービス化は行われていない。そのため一般に普及できるもの、低コストで作ることのできる仕組みについてまとめた。メガネやゴーグルに装着できることを想定しているという。
目は、疲労や眠気、見えている対象物への反応の有無と関係がある。また電子機器の操作のように、目を使う動作とも深く関わる。
電子機器の発達により、目の健康被害を受ける人が増える可能性が大きいことから、目の活動を常にセンシングできる機器は一定の需要があるのではないかと考えているという。「常時でなくとも、パソコンの画面やテレビの画面を見ているときなど、一時的に目の記録をとることでも利点があると思う」と双見教授は使用の可能性について指摘する。
「実社会に普及し、一般の人が使えるようになることで将来的な目の健康予測が可能になり、目の悪化軽減につながる可能性がある。疲労や眠気など、自己認識的なサインが目の情報から読み取れるようにできればよいのではないか。そうすれば自身のパフォーマンス管理にもつながると思う」と応用例についても言及した。
双見助教は、イノベーションジャパン2021で自身の研究内容が採択されたことに関して「自分の研究が、学外で一定の評価をいただけたと感じた。目の健康管理ができるなどの利点は、まだ想定の話なので、この研究をさらに進める余地が生まれたと思った」と語った。
またこれからの展望については、ウェアラブルパーツの商品化を挙げた。「一般の人にも使ってもらえるようにサービス化したい。他の業種の方とも連携しながら実社会に出すための方向性を探っていきたい」と語った。
(坂口)