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「男女平等の世界を作りましょう」ノーベル平和賞医師、学生に魂のメッセージ

本学は10月7日、紛争下のコンゴ民主共和国で性暴力被害にあった女性を治療し続け、2018年にノーベル平和賞を受賞した婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏(64)に名誉博士号を贈呈した。贈呈式と記念講演会が以学館1号ホール(衣笠キャンパス)であり、学生や市民など600人が集まった。講演会の後には、本学学生との懇談会が催され活発な意見交換が行われた。(鶴)

本紙では、前後半にわたって講演会と懇談会の模様をお伝えします。後半の今回は懇談会の模様をお伝えします。(今回は後半です)

前半 講演会の要旨「性暴力のない世界を作りましょう」 ノーベル平和賞医師に名誉博士号

 

学生と記念写真を撮るムクウェゲ氏

 

Q インドネシアからの留学生で、国際関係学部で学んでいます。先生がアフリカの状況を改善する取り組みを始めたときに苦労したことは何でしたか? また振り返ってこうした方が良かったということはありますか?

ムクウェゲ氏;人生で1番大事なのは「自分のためだけを考えない」ということです。人生の使命を自分の生活に限定すると、あなたの人生の意味は矮小化するでしょう。他人の幸せのためと考えることで、活動分野も分かってきます。

私に関して言いますと、病気の苦しみが1番印象深いことでした。病気で苦しむ子どもを見ると胸が痛みました。それと母親(出産時)の死亡率が高いということですね。外国で医学を学び自分の国に帰ってきて、女性が十分な医療を受けられずに亡くなっていることが分かったのです。子どもたちに命を渡すために、女性が亡くなっています。

あなたが命を他人のために使おうとすれば、何をすべきか自分に問わなければなりません。

Q 韓国からの留学生です。コンゴでは家父長制が根強いと思いますが、なぜ女性のための活動を始めようと思ったのでしょうか?

ムクウェゲ氏;私の話をしなければならないでしょうね。私は8歳でした。牧師をしていた父親と一緒に、病人のために祈ったのです。その後、父親は病人に「さようなら」と言いました。8歳の私は「苦しんでいるのに、どうして薬をあげないの」と尋ねました。父は「私は医者ではないのです」と答えました。それで私は「あなたは祈って、私は薬をあげる」と言ったのです。

まずは小児科医として働き始めましたが「小児科医は女性を治療できない」と気が付きました。さらに5年間、勉強をして産婦人科医になりました。働き始めて15年後に戦争が始まりました。女性がレイプ被害を受け、性器を破壊されるおぞましい状況です。

女性の傷を治療するために私は特別な病院を作りました。その時に身体的な治療では十分でなく、心理的な治療も必要だと思いました。私のアプローチは問題に対して何ができるかというものでした。「目の前にいる人の生活を良くするために、どうすれば良いか」を考えました。

女性たちは現在、自立してコミュニティの中でもリーダーになっています。自分の生命を他人と分かち合うことができる人になったわけです。

Q 性暴力を受けた女性は地域社会から差別を受けるという話がありましたが、性暴力被害によって生まれた子どもを、家族やコミュニティはどのように受け入れますか? また子どもはどのような傷を負っていますか?

ムクウェゲ氏;望まれない妊娠から生まれた子どもたちですね。子どもたちは無罪ですが、理解されません。(子どもを)養護院に預けて、2度と会わない母親もいます。例えばごく普通の悪さをしても、「あなたは殺人者の子どもだから」と言われます。そう言われ続けることで、ある年齢になると自分の扱われ方が他の子どもと違うことに気が付くのです。自分の中にトラウマを時限爆弾のように蓄積するわけです。そのトラウマの記憶が爆発し、暴力的になる可能性があります。危険なことです。子供の中に暴力を蓄積しているようなものです。

Q 被害者はパンジ病院に自分から来るのですか?

ムクウェゲ氏;3つのケースがあります。私たちと一緒に活動している130の国際組織や教会が現場に行って、パンジ病院に搬送することがあります。またパンジ病院の移動チームも被害者を病院に搬送しています。ないしは患者が自分の力でやってくることもあります。女性器が傷つき、失禁状態に陥ると共同体で暮らすことは難しくなります。そういう女性は1人でやってきます。

Q ムクウェゲさんは医療と政治の交差点にいると思うのですが女性の権利について1番大きな課題は何でしょうか? HIVなどの医療に関するもの、あるいはイデオロギー的なものか。どちらだと思われますか?

ムクウェゲ氏;たしかに医療と人権のクロスしたところにいますね。人権というと政治的な領域になります。働き始めて10年ほどは「あなたの病気は何ですか?では治療しましょう」と医者としての仕事をして、結果を得ていました。

その後、レイプされたり性器に銃を打ち込まれたりした女性と出会い衝撃を受けました。レイプで生まれた子どもを見たときに「私はこれまで馬鹿なことをしてきた」と気づいたわけです。私がしていたのは同じことの再現、ただ壊れた機械を直しているだけに過ぎなかったのです。しかしながら、その脇には機械を壊している人がいます。

次第に明らかになったのは政治家が性的暴行を厳しく取り締まらなかったことです。女性たちは法律で守られるべき存在なのに、そうなっていなかった。政治家に「女性が守られていない。これはあなたの責任だ」と問題を提起しました。パンジ病院のリーガルサービスで、レイプをした男性を訴えることにしました。そうすると私の周りの人が殺されるという出来事が起こりました。私の命も危うくなりました。国連のエスコートなしには病院を離れることができず、妻と一緒に病院で暮らし始めました。

「人権が侵されている」と告発しただけでそういう目にあったのです。実際に民主主義を奪っているのは政治家です。そして表現の自由を奪っているのも政治家です。

仲谷学長から名誉博士号を授与されるムクウェゲ氏

Q コンゴやアフリカの国々では物理的な性暴力が存在しています。しかし先進国にある政治的ないし機会を奪うようなことも性暴力の一種だと思います。そのような構造的な差別を解消するためにどうすれば良いですか?

ムクウェゲ氏;男性がこの質問をしてくれたのが嬉しいです。全ての男性が同じ質問をすれば、世界は変わるでしょう。私はここ数年間、G7のジェンダー平等諮問委員会の共同議長を務めています。G7は世界中でもっとも先進的な国々ですが、不平等は存在しています。

不平等は法律によってサポートされているわけです。法律家から「法律によって平等を加速することができる」と言われました。それでG7の議長国に「(ジェンダー平等のための法律に関する)79の法律を見てください」と提案しました。「先進的な法律を少なくとも1つ採択してください」とも言いました。

G7の中には女性議員がほとんどいない国もあります。これは差別です。私たちが家父長制のシステムの中にいるから、女性が支配的なポストに就けないわけです。私たちは「G7から男女差別的な法律をなくし、女性が社会進出するための法律を採択してください」と要請しました。その4つの柱は①性別に基づく暴力に終止符を打つこと②公正な質の高い教育と保健医療を保障すること③経済的なエンパワーメントを促進すること④公共政策において完全なジェンダー平等を確保することです。

女性はここ100年間、たくさんの努力をしました。女性の頑張りにコミットすることが大切です。だから若い男性、あなた方に申し上げます。ネガティブな男性性を阻止し、男女平等を進めてください。

Q 性暴力はいつでも、誰にでも起こりうるものだと理解しています。自分の身近な人が性暴力の犠牲者となったときに、トラウマから回復するのを手伝うために何ができるでしょうか?

ムクウェゲ氏;性暴力を維持しているのは「社会の沈黙」です。どの国でも、性暴力を話題にすると「そんなものはない」と言うでしょう。しかし、それは偽善です。家庭内でも、公共交通機関の中でも性暴力はあるのです。すべての人に性暴力は起こりうるものです。ある女性は6歳の頃から父親に性的暴行を受け、26歳まで続きました。父親は「口外しないように」と言ったわけです。

レイプに対する最善の武器は沈黙を破ることです。レイプはタブーではなく、犯罪です。失われた尊厳を取り戻すために司法に訴えることが必要です。加害者が非難されることで、被害者を助けることになります。性暴力の被害を告発する前と後では、被害者の人生は変わります。話し始めた女性を支援することが大切でしょう。

Q 誰もが加害者になる危険もあると思います。加害者にならないためには、どういう心がけが必要でしょうか?

ムクウェゲ氏;教育だと思います。紛争が起きると、12から14歳の少年は軍の指導者を信頼してしまいます。洗脳もあります。しかし教育を受けていれば、抵抗することもできるでしょう。

男女平等に関する教育も幼い時期から始めるべきです。私たちは無意識のうちに間違いを犯しています。東京で会った女性は「私に男の子が生まれて嬉しい。女の子のように苦しまなくてもすむから」と言いました。そういう考え方は男の子に有害です。例えば転んだ時に「男の子だから強くないといけません」と言われると「妹は転んでも良いけど、ぼくは転んではいけないんだ」と思うわけです。「感情を持ってはいけない」とも考えるようになります。

男女平等を実現した国はありません。G7でもそうです。同じ仕事をしていても女性の給料が男性よりも低いです。それは「男女で違う」という知覚があるからです。その知覚と戦っていかなければなりません。

Q コンゴ紛争の背景には鉱物がありますよね。その鉱物を使ってスマートフォンやタブレットを製造しています。しかしスマホを使わないという選択は非常に難しいです。

クウェゲ氏;スマートフォンを持つことが罪ではありません。問題は「どのように作られているか」ということです。多国籍企業は原材料の採掘方法を確認する努力をしません。安く買われた鉱物の裏には悲惨な状況があります。

みなさまは消費者として力を持っています。消費者は生産者に対して「知りたい」と言わなければなりません。「原材料を子どもが採掘していないか?」と質問をするのです。それを5000人がすると、生産者のメンタリティも変わります。みなさんがキャンペーンをしてくれれば上手くいくと思います。

学生へのメッセージ

みなさまは私たちの将来であり、希望です。「今より良い世界を作りたい」「男女平等の世界を作りたい」とみなさまに言ってほしいです。男性から、男女平等に関する質問があったことを嬉しく思います。その意味で私たちには未来があります。みなさまがこの問題に関心を持ってくださったことに感謝します。

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