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海神DIGITAL「行ったことない街」

立命館大学新聞のコラム欄「海神(わだつみ)」。記者が日々の思いを語ります。

行ったことない街に知っている人がいる。それはとても愛おしいことだと思う。

私の母は地元と違う地域で大学生活を送った。大学時代の友人らは今、全国各地に散らばって生活を営んでいて、お互いに時々連絡を取り、会っている。どこかで災害が起きれば、母はその街に住む友人を心配した。祖父母の家と実家が近いせいで、私には「第二の故郷」がない。それも相まって、まだ日本の地形をなぞったことのない私にとって母の姿は大きく見えて、憧れていたのだと思う。

そして今、場所は違うものの私も母と同じように地元を離れた。縁もゆかりもなかったこの街は、私にとって徐々に大切な街になった。そしてこの街で人と出会い、その人が育った街の名前をたくさん知った。

正月、地震があったとき、ニュース番組で友人の街を探した。行ったこともない、名前しか知らないその街が大切に思えた。以前、関西に台風が来たとき、地元の友人が心配して連絡をくれた。

きっと大学を卒業したら、それぞれ各地に散らばって生きていくのだろう。毎日のように会って、話すことはなくなる。でも、時々彼らを思って生きるだろう。

行ったことない街に知っている人がいる。あの人の街。あの人の仕事。あの人の大切にしているもの。誰かに出会って、自分のことを知ってもらって、誰かのことを思って生きる。そうやって、自分が大切に思える世界を広げていけたらいい。そう、ぼんやりと思った。

(井本)

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