壮一ノンフィクション賞と城山三郎賞を受賞した本学卒業生の安田峰俊さんが本紙取材でルポライターとしての歩みを語った。
1989年6月4日、民主化運動の中で発生し、多数の死傷者を出した「天安門事件」。この事件を題材にした『八九六四「天安門事件」は再び起きるか」で、大宅滋賀県東近江市に生まれた安田さんは、センター試験で満点を取るなど世界史が得意で、本学文学部の東洋史専攻(現・東アジア学域)に入学した。サークルは東洋史研究会に所属し、2回生夏からは中国南部の深圳大学で1年間の交換留学を経験した。
「僕の中国語が比較的自然なのは、頭の柔らかい19歳の時に留学したからだと思う」
大学院を経て一般企業に就職したが、半年で退職する。その後、非正規雇用で働きながら「好きなことで自己実現したい」とライター業を始めたが、はじめは鳴かず飛ばずで「パワーストーンの効能とかも書きましたよ」と安田さんは苦笑する。
苦節の末、中国のネット投稿を翻訳したブログが書籍化され、中国ライターとして週刊誌やウェブ媒体の記事を執筆するようになった。自身の強みは「人と違った視点で書くこと」。『八九六四』では、それまでの「かわいそうな天安門」という切り口ではなく、「中国でも事件への関心が薄れているのでは」という視点から、経済成長の中で風化する民主化運動などリアルな中国の今昔を描いた。あとがきにこういう言葉がある。
「あの時代の中国を生きたあらゆる青年たちの、その後の人生にエールを」
安田さんの肩書はルポライターである。その理由を聞いてみると「なんか胡散臭いけれど、格好良い。自由な人生を送っているっぽく見えるでしょう」と闊達に笑った。(鶴)