立館大学新聞のコラム欄「海神(わだつみ)」。記者が日々の思いを語ります。
家の近くの坂を降る時、春を象徴するあの香りがした。鼻がムズムズする。あいにく私は自転車から手を離すことができず、その香りを全身でくぐり抜けた。
2021年、昨年から続く新型コロナウイルスの流行で混沌とした日本。世間は未曾有の流行病に備えて、矢継ぎ早に手を打った。度重なる緊急事態宣言。足踏み式の消毒装置、アクリル板で仕切られたテーブル席にフェイスシールド。見慣れない道具が増えたものだ。
ある午後のカフェでふとそんなことを感じた。「異常」が「日常」に溶け込みつつある今日この頃、花粉症はやって来た。何だかすっかりご無沙汰してしまっていた。異常事態に飲み込まれた世界で、今年も変わらずやって来るそんな存在に何だか懐かしいような感情を抱いた。郷愁にも似たその思いは、少しだけ安心をもたらすものでもあった。
この季節に変わらずやって来るものと言えば、花粉症の他にも様々ある。出会いや別れもその一つだ。3月上旬、母校では卒業式が執り行われたそう。昨年同様、卒業生と教職員のみのささやかなものだったが、きっと通い慣れた校舎に別れを告げる大きな一日だったことと思う。また、今年は本学でも新入生を対象にした入学式が実施された。新品のスーツに身を包み、これからの仲間と初めて顔を合わせる場。どうか新入生の皆さんが素敵なキャンパスライフを送れますように。(佐野)