建築家の隈研吾さんが、7月10日、衣笠キャンパスの以学館にて本紙単独インタビューに応じた。隈研吾さんは同日に行われた、加藤周一記念講演会にて「加藤周一を引き継ぐために 加藤周一と建築」をテーマに講演していた。(聞き手:三井)
◯第5回加藤周一記念講演会を終えたとき、まずお持ちになった感想を教えてください。
加藤先生がいかに「構造」への関心を持っていたか知ることができ、仮説が間違っていなかったと確認できました。その点では、加藤先生と改めて出合うことが出来ました。
◯講演会で力を入れて伝えたかったメッセージは、ご自身と加藤周一の共通点である「科学性」「個別性」への思いでしょうか。
そうですね。文学の世界で、科学をあれほどはっきり意識してやった方は、加藤先生しかいないと思っています。また、加藤先生は僕が目指している、科学と感性の統合の先駆者だと思っています。
◯学生時代に加藤周一について学ぶ意義について教えてください。
日本では科学と文化は別の学科で学ぶものになっています。それを横串に刺して学ぶ、学際的なスタンスが若い頃に無いと、非常に偏った人間になってしまいます。その点では、科学と文化を貫く視点を学べる、加藤さんのテキストは、僕は一番良いと思います。
◯加藤周一の本でぜひ学生に読んで欲しいものはありますか。
「日本文化における時間と空間」(岩波書店)と「幻想薔薇都市(まぼろしのばらのまちにて)」(新潮社)をぜひ読んで欲しいですね。
◯本学と隈研吾さんの繋がりを教えてください。
ここ(本学)で教えている、及川清昭先生(理工学部特命教授)は大学院の研究室の一年先輩です。その研究室は世界の集落調査を行うということをやっていて、僕はアフリカのサハラ砂漠を縦断していたけど、及川さんの時はちょうどそれが無かったですが、同じ原広司研究室でした。
◯隈研吾さんが建築においてこだわっていらっしゃる、木の魅力について教えてください。
建築は写真で見るものではなく、実際に入ってみて、触ったり匂いを嗅いだりして体験するものだから、人間に近いところに木を使うことで、建築が質的に変わります。おそらく「ホモ・サピエンス」としての森のなかで生活していた記憶が蘇ってきて、気分が変わるのだと思います。それが木を使う一番の理由です。
◯隈さんは建築において「箱からの解放」をおっしゃっています。「箱からの解放」という視点で、現代の学生をどのように見ていますか。
僕なんかの頃は里山が残っていて、ゲームをするよりは里山を走り回って遊んでいました。今は意識的に動かないと、自然に触れ合うことが出来ないです。若い時から自然に触れておくことは、後々の感性にずっと影響すると思います。人類が箱から出る時代に来ているという認識を持って、学生には世のなかに出てほしいと思います。
◯学生時代にしておいた方が良いことはありますか。
少し長い旅をしておくことが自分にとって勉強になります。長い旅をすると、体力もいるし、生活能力を鍛えられます。長い旅は学生時代でないと、なかなか出来ないです。社会に出てから旅となると、会社を変えたり、辞めたりする時になってしまいます。ぜひ、学生時代にやっておいてほしいです。