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天花寺さやか先生インタビュー 「京都に思いが伝わった」

2019年10月31日、第七回京都本大賞が発表された。京都本大賞とは、過去一年間に発刊された京都を舞台とした小説の中から、最も地元の人々に読んでほしいと思う一冊を決めるものだ。第七回目は「京都府警あやかし課の事件簿」が選ばれた。
人ならざるものや怪異な事件を専門に取り扱う、京都府警内に置かれた特殊組織「あやかし課」。そこに配属された若き隊員たちを中心に繰り広げられる、あやかしと人との激しい戦いと心温まる交流が、本作の魅力となっている。
著者の天花寺さやか先生に、受賞に対するお気持ちや、京都の魅力について伺った。

天花寺さやか(てんげいじ さやか)
京都市生まれ、京都市育ち。小説投稿サイト「エブリスタ」で発表した「京都しんぶつ幻想記」が好評を博し、「神様×現代ファンタジー」部門急上昇で一位を獲得。同作品を加筆・改題した『京都府警あやかし課の事件簿』でデビュー。

 

〇第七回京都本大賞を受賞された時のお気持ちをお聞かせください。

私の京都への思いが、京都に届いた、ということが何よりも嬉しかったです。賞を頂けて光栄だ、という気持ちももちろんありますが、それ以上に自分の気持ちが京都に受け入れてもらえたことへの嬉しさが大きいです。

 

〇京都を舞台にした小説を書きはじめたきっかけを教えてください。

小説自体は小学校2年生のころから書いていたのですが、京都を舞台にしようと思いはじめたのは18歳のときです。きっかけは、テレビ番組で京都が「人に優しい都道府県ランキング」で47位、つまり最下位だったことです。生まれ育った町だけに、京都が「意地悪な町」と思われていることが衝撃的でした。京都にも優しい人はいっぱいいるということを地元の人間として知っていたから、本当の京都を伝えたくて、小説を書きはじめました。

 

〇あやかし課のメンバーたちの、仲間思いな行動や、クスッと笑ってしまう日常風景の描写を読むと、「京都の人は冷たい」というイメージが和らぎました。

ありがとうございます。ですが、小説は実際と違う風景を書いたのではなく、本当に京都の人たちはあんな感じですよ(笑)。
最近は特に「京都の人は冷たい」「裏がある」というイメージが独り歩きしているように感じます。もちろん、イメージ通りの人もいるかもしれないけれど、それ以上に優しい人はたくさんいます。けれど、そのことを作品内で強く主張しすぎてしまうと、やっぱり小説としても面白くはないですよね。だから、そこにはあえて言及せず、楽しい場面を通して「京都って、実はこんなところなんだ!」と思っていただけると嬉しいです。

 

〇「京都府警あやかし課の事件簿」はどのようにして生まれたのでしょうか。

18歳のとき、「京都を舞台にした小説を書こう」と思って、最初に作ったキャラクターが6人います。その6人が「喫茶ちとせ」で働くあやかし課のメンバーです。もともと最初は「京都府警」も「あやかし」も全く関係なく、単純に「京都の魅力を伝える小説」のキャラクターとして、思いついただけでした。だからそのときは作っただけで、実際にそのキャラクターが登場する小説を書きあげるでもなく、具体的に京都を取材するでもなく、ましてや受験生だったので、そのまま受験勉強に集中してしまって、ほったらかしにしてしまったんです。
その後、歴史を学べる大学に進学して、卒業して就職して、社会人になってやっと「本格的に小説家を目指そうかな」と思いはじめました。そこから数年くらいは、小説を書いてはどこかの新人賞に応募して落選し、小説投稿サイトに投稿しては人気が出なかったから消して、を繰り返していました。
結婚をしたころに新しく京都を舞台にした小説を書いて、ケータイ小説サイト「エブリスタ」に投稿しようと思い立ちました。その時に「18歳のときに作ったあの6人を、もう一度ちゃんと書いてみよう」と考えました。同時に、それまでに考えついていた「喫茶店の裏の顔が幽霊退治もできる何でも屋」という設定も生かそうとしました。ですが、もし本当に神様やあやかしがいるとして、それにまつわるトラブルを解決するという仕事をよく考えてみると、警察内にそんな組織があってもいいのではないだろうか。じゃあもういっそ、京都府警にそういう特殊組織があるって話にしようと思って書き直したものが、最終的に「京都府警あやかし課の事件簿」になりました。警察に関しては、雑誌やテレビから得た情報をもとに書いているので、リアルとはだいぶかけ離れていると思います(笑)。

 

〇八坂神社や日吉大社、先斗町など、作品内には京都の名所がたくさん出てきますが、実際にその場所で取材をされるのでしょうか。

可能な限り取材はします。現地に行って、お話を聞いてその土地や伝説に対する見方が変わったりすることがあります。特に京都の名所は、人の雑踏や風の通り、匂いなどを描写することで作品をより立体的にすることができます。自分自身が知らないと書けない部分も多いので、実際に行って、感じて、お話をお聞きして、そういったことを積み重ねて書いています。見たり聞いたりすればするほど「知らなかった!」ということに出会えるので、取材しながら勉強している、という感じです。

 

〇作品内では「伝説」が大きなキーポイントとなっていますよね。

伝説から着想を得る、ということはあります。
京都は歴史が長い分、伝説や逸話もかなり多いです。京都の伝説を集めた書籍を読んだ際、「一条戻り橋」や「宇治の橋姫」といった伝説の中に「朱雀門の鬼笛」という項目がありました。「あやかし課」の2巻に登場するのですが、鬼と貴族が笛を取り換えて合奏した、という話で、地元の人間ながらに「なんて京都らしい雅な伝説だろう」と思いました。その話についてもっと知りたい、と思い調べていろいろとわかってくるうちに出来上がったのが「あやかし課」2巻の「都ノ名宝、宇治二アリ」というお話です。

 

〇取材をする上で、何か気を付けていることはありますか。

その人が話されることには一切口答えをしない、ということです。私は大学生のとき、民俗学の先生から「取材する方には、何を言われようと、口答えをしてはいけない。話すことがいかに差別的であろうとも、偏見的であろうとも、文献が間違っていようとも、その人がその土地に住みその考えに至るまでには、おそらく民俗学的な何かがあったはずだ。だから何も言わずに全部聞いて、その場で否定は一切するな」と教わりました。それを今でも心に留めて取材しています。後から思い返して納得することや、文献と比べてみて生まれた「なぜ違うんだろう」という疑問から新たな考察に至ることもあります。

 

〇取材内容を文章に落とし込む際に、大事にされていることはありますか。

とにかく取材対象の地域と取材させていただいた方の名誉を傷つけないようにはしています。話の展開上、どうしても悪者として書かざるを得ない場合はそれをあらかじめお伝えしますが、基本的には取り上げた場所と人にマイナスイメージを与えないように気を付けています。単語の言い回し一つで与えるイメージは大きく変わりますしね。
それと、取材でお聞きした内容は、ほんの少しでも必ず使うようにしています。わざわざお時間を割いて取材を受けてくださったのに、いざ本を読んだら全く使われていない、というのは失礼ですよね。一応先方には「もしかしたら話の都合上、うかがったことを使わないかもしれないです」という断りだけはお伝えしますが、お聞きしたことはなるべく作品内で生かすようにしています。

 

〇京都の魅力についてお聞かせください。

どれだけいても飽きない、というところが一番の魅力だと感じます。京都は長い歴史を持つ街なので、お寺や神社、所以のある歴史上の人物などの数が他府県に比べて圧倒的に多いです。そういった古いものを大事にしつつ、新しい名所や見どころもどんどん増やそうとしているので、全く飽きません。心の休まる静けさと、ワクワクするような楽しさが、混在している街だと思います。
それと、街の中でふと京都らしい、雅な場所を見つけたりすると、漫画の世界に入り込んだような、異世界に来たような気持ちになりますよね。「日常の中に非日常的な風景がある」というのも京都の魅力の一つだと思います。

 

〇一推しのスポットなどがあれば教えてください。

① 平安神宮(左京区)
平安神宮に行くとテンションが上がります。神宮道に立つと、平安神宮の赤い応天門と、大鳥居と、大文字山という日本らしいものを一度に三つも見ることができます。あそこに立ってしばらくボーっとしていると、京都を感じられます。だから観光で京都に来られる方にはまず平安神宮をご案内します。

② 大文字山(左京区)
大文字山から見る景色がとても好きです。あの山からは京都の中心、洛中全体が見渡せます。京都って、街並みはビルがたくさん建っていたりして、身近で見るともちろん大きく変わっていますが、大文字山から見える鴨川や嵐山などの基本的な地形はほとんど昔と同じですよね。千年前と変わらない風景を見ていると、千年前にタイムスリップしたような気持ちになれます。それが私にとってはロマンであり、また癒しでもあります。大文字山から京の町を一気に眺める、というのはかなりおすすめです。

③ 京都市歴史資料館(上京区)
京都のことについて調べるなら「京都市歴史資料館」がおすすめです。プロの学芸員の方に「歴史相談」をすることができます。「あやかし課」で鬼笛の話を書いた際も、学芸員の方にこういう伝説を調べているのですが、とお聞きしたらすぐに資料を出してくださって、それが作中に登場する「十訓抄」です。とても親身になって相談に乗ってくださるので、大学で歴史を学ばれている方や、小説を書くことにご興味のある方におすすめです。

 

〇神様や鬼など、作品内には人ならざるキャラクターがたくさん登場しますが、実際に 「あやかし」と遭遇されたご経験や不思議な体験をされたことはありますか。

あります(笑)。
中学生のころ、陸上部だったのですが、走るのが全然楽しくない、スランプのような時期がありました。その日も嫌々ながらにもいつものランニングコースを走っていると、私の5,6メートル前に見知らぬおじさんがいました。その人は、私に追い抜かされることもなく、かといって私を置いていくこともなく、だいたい私と同じペースでずっと走っていました。その人を見ながら私は「この人を追い抜かそう」と思って頑張ったのですが、結局追いつけずに予定していた距離を走り終えました。そのまま歩きながらふと前を見ると、そのおじさんはいつの間にかいなくなっていました。ずっと同じ距離感で走っていたはずなので、私が走るのをやめてもまだすぐ前方にそのおじさんはいたはずなのに、私が走るのをやめた途端に消えてしまいました。でもそのおじさんのおかげで走る意欲が湧いてきたので、感謝しています。長岡京に神足(こうたり)神社っていう、足にご利益があると言われる神社があるのですが、そこの神様だったのかな、なんて今でも考えたりします。

同じく、中学の陸上部での話がもう一つあります。ウォーミングアップをしているときに、学校の鉢植えの中に、体がだるまで顔が日本人形、という不思議な人形が置いてあるのを見つけました。私はその人形に「ひなこ」という名前を付けて、校門の上に移動させたのですが、ウォーミングアップから帰ってきたときには校門から消えていました。「たぶん誰かが捨てたのだろう」とその日は思ったのですが、その翌日、なんとまたその人形は鉢植えの所に戻ってきていました。後にも先にも、あんな変わった人形は見たことがありません。京都でお人形と言えば法鏡寺(上京区)が有名ですが、もしかしたらそこにいるのかな、なんて考えたりします。

 

〇最後に、本学の学生に向けて、一言お願いします。

自分が本当に興味のあることだけを勉強できるのは、おそらく大学の4年間だけです。小中高生の間は、学ぶ教科を決められているし、社会人になると仕事があって勉強する暇はほとんどありません。知りたいと思うことについて、勉強して、調べて、実際に足を運ぶという経験は、すればするほど自分の教養になっていきます。もちろん、部活動やアルバイトや趣味に全力で取り組むことも、必ずいい思い出と後々の強みになると思います。いずれにせよ、24時間を自分の好きなように使える期間はおそらく大学の4年間だけしかないので、後悔の無いように過ごしてほしい、と大学生にはお伝えしたいです。

 

(波多野)

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