本学法学部の卒業生である木住鷹人(ようと)さんが京都文学賞の最優秀賞を受賞した。受賞作の『危険球』は、高校野球でのある試合にまつわる物語。京都が舞台となっており、本学衣笠キャンパスも作中に登場する。

本学を卒業後、銀行員として勤務。忙しく仕事に従事する中でも、本は読み続けたという。「しんどいときも本には助けられた」と木住さんは話す。
長らく勤務を続けたが、体調を崩したことが転機となった。もしこのまま死んでしまったら何を後悔するかと考えたという。自分なりに大切だと感じていることを形にしたいという思いが執筆のきっかけとなった。
木住さんは、本学在学中も執筆を試みたことがあった。「同じような悩みについてでも、学生当時と現在では捉え方や考え方が違うことに執筆を通じて気が付いた。そういった視点の違いも表現できていたら」と木住さん。同作では、立場や年齢も違う登場人物の心情を丁寧に描き上げた。
「言葉を大切にすること」と「勝負にゴールはないということ」。この二つが木住さんが同作を通じて伝えたかったことだという。
木住さんは物語を執筆する際、直接的な表現を使わないようにすることを心掛けていると語る。
同作の登場人物の「権田」は言葉そのものを信じないがゆえに口を閉ざす。
「描写から言葉の強さを知ってほしい」と話す木住さん。その上で、「物語の良さは、読み手自身の経験に照らし合わせて補うことで、それぞれの受け取り方ができるところにあると思う。自由に読んでいただけたら」と笑顔を見せた。
最後に「大学という機関は真理を追及する場所だと思っている。実社会で適応できるようにさまざまなスキルを身に付けることも大事であるが、何を大切にして生きるべきか、自分なりの答えを見つけるための時間を過ごしてほしい」とメッセージを送った。
同作は早川書房から出版されている。

1963年、京都市生まれ。好きな食べ物は鶏肉、納豆。趣味は野球観戦。愛犬と過ごすのが癒しの時間。
(吉江)