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【立命館教員インタビュー特集】第3回:中村仁美先生

中村仁美先生

#文学部 #英米文学 #アイルランド文学

本学文学部で、英米文学やアイルランド文学を専門として教壇に立つ中村仁美先生。本年度は、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学で1年間研究に注力する予定だ。第3回教員インタビューでは、中村先生が英米文学・アイルランド文学を専攻とした経緯や、今後の研究などについて伺う。

 

―大学時代、英米文学を専攻した理由について教えてください。

もともと、私は英語という言語や文学そのものに広く関心を持っていました。子供の頃の自分にとって、英語は少しまどろっこしいけど新しく、風通しがいい言語でした。英語で文学を読んで、新しい世界や知らない考え方について学んでみたいと感じたのが、英米文学専攻を選んだ理由です。

―英語や文学に興味を持ち始めたきっかけについてお聞かせください。

高校生の頃、英語の先生と仲が良く、初めはその先生にアメリカの文学作品や作家を紹介していただきました。今でもご自宅に伺うような仲なのですが、とてもいい出会いをいただいたと感じていて、その先生には心から感謝しています。父が文学を好む数学教師だったこともあり、家には国内外問わずさまざまな本が置いてあったのもきっかけの一つだと思います。

―その後、どのような思いから、博士課程後期課程(以下、博士課程)まで進むことを決められたのでしょうか。

問うことや考えることが好きだという気持ちが、根本にはあるのだと思います。詩や小説を読むときに、辞書を引きながら「分からないな」と感じることが、皆さんにもあるのではないでしょうか。分からないからこそ、自分の言葉を練って考える。そういう「分からなさ」にたたずむ状態が、昔から好きだったんです。なにか一つの作品に触れるにしても、原文の言語表現が分からないというレベルから、その作家が何を考えているのか、なぜこの話はこんな展開をたどるのかなど、たくさんの問いが拡散していく感覚はとても刺激的なものでした。

問い続け、何度も読み返す中で、いつしか作品自体が自分に入り込んで棲(す)み着くような感覚を覚えました。自分なりに作品がつかめたと感じた瞬間は、陶酔に近いような感覚で。読んで、問うて、考える。そんな日々を続けたいと思ったのが進学を考えたきっかけです。

その後、ある詩人についての研究会に参加したことも印象深い出来事の一つです。研究会では、詩のたった1行の解釈をめぐって何時間も議論している参加者の皆さんの姿がありました。その様子を見ているうちに、頭がくらくらするような感覚になってきて、ふと「いい読者になりたい」と感じました。その思いは、今でも大切にしています。

 ―博士課程での留学経験や研究についてのお話をお聞かせください。

大学院に進学し、自分が興味を惹かれる作家にはアイルランド出身者が多いことに気が付きました。そこで、博士課程の2年目に休学して、アイルランドの首都・ダブリンにある大学でアイルランド文学(Irish Writing)修士号のコースへ進むことを決めました。

ダブリンは国際色豊かな街で、さまざまな国の友人ができました。ジェイムズ・ジョイスの短編集に『Dubliners(ダブリンの人々)』というものがありますが、私にとってはそこで出会った人々が「ダブリンの人々」です。一時期、一緒に暮らしたバスク州出身のアイルランド文学研究者を始め、現地での出会いは私の人生に大きな影響をもたらしてくれました。以後、アイルランドに縁のある作家についての論文を多く書くようになりました。ここ数年はアイルランド語を学んだり、アイルランドの文芸誌を収集したり、と活動の幅を広げています。友人のお誘いを受けて、アーシュラ・K・ル=グウィン作品の翻訳に携わる機会もありました。

〇ジェイムズ・ジョイス(James Joyce, 1882-1941)
アイルランド・ダブリン生まれの作家。代表作は『ユリシーズ』『フィネガンズ・ウェイク』など。
〇アーシュラ・K・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin, 1929-2018)
アメリカ・カリフォルニア生まれの作家。代表作は『ゲド戦記』シリーズなど。

―今年の4月からベルギーに行かれるとのことですが、どのように過ごされるご予定ですか。

滞在先であるルーヴェン・カトリック大学には、アイルランド研究のための研究機関(Leuven Centre for Irish Studies)があります。アイルランドのみならず、ヨーロッパ全土から作家や研究者が集まる場所です。半ば直感なのですが、ここで過ごしてみたいと感じました。学会や研究会、読書会に参加するほか、詩祭や文学祭など文芸関係のイベントにも足を運ぶつもりです。また、これまでの自分の研究成果を発表する機会を作れればと思っています。

―最後に、学生へのメッセージをお願いします。

研究の中で「分からなさ」にたたずむことは、自分を成長させてくれるものであり、それ自体が魅力的なものだと感じています。学生の皆さんも、授業や課題の中で何かがしっくりこないときがあるかもしれません。ですが、そのことにあまり否定的にならず、むしろ肯定的に捉えてほしいなと思います。

私はいつしか、英米文学とアイルランド文学という二足の靴を履くことになりました。これからもこの靴を履いて、いろいろなところへ歩いていきたいです。学生の皆さんも、選択肢が多いと迷ってしまうということはあると思います。それでも、自分が選んだ靴を履いて、そこからどこへでも好きな方向へ歩いて行けるということは伝えておきたいです。(竹内)

 

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