「令和3年度科学技術分野における文部科学大臣表彰」が4月6日に発表され、理工学部の長谷川知子准教授と生命科学部の折笠有基教授が若手科学者賞を受賞した。
文部科学大臣表彰は科学分野において顕著な成果を挙げた科学者を表彰し、今後の科学技術を向上させることを目的としている。そのうち、若手科学者賞は独創的な視点に立った研究を行った40歳未満の研究者を対象とする表彰として設置されている。長谷川准教授は気候変動問題と食料安全保障に関する研究業績において、折笠教授はエネルギー変換デバイスである電池に関する研究において、表彰された。
長谷川准教授は、本学理工学部環境都市工学科にて、気候変動による影響や食料需給システムなどをテーマに研究をしている。今回の研究で、農業・土地利用を介した気候変動政策が農業経済などを通じて、世界の食料安全保障に与える影響を明瞭かつ定量的に解明した。また、本賞以外にも2年連続で、クラリベイト・アナリティクスの事業部門であるWeb of Science Groupが発表した高被引用論文著者にも選出されている。
折笠教授は2016年より本学生命科学部応用化学科の教授に就任し、主に無機化学・電気化学に関して教鞭をとり研究を行なってきた。学生時代より環境問題に強い関心があり、今回の研究もそこに直結するものである。電池の解析を通して脱CO2社会構築への貢献を目指しているという。
エネルギー変換デバイスに関する研究について
折笠教授の研究は電池の内部を解析する観測技術を推進するものだ。電池の解析は耐用年数の伸長など品質向上には必要不可欠な存在である。従来、こうした解析は使い終わった電池を解体して観測する他なく、調査精度には限界があったが、折笠教授は発動している状態の電池内部を観測することに成功した。この観測には電池内部を空間的・時間的階層に分ける必要があったという。
まず、電池の内部は非常に細かい粒子が集合した複雑な構造をしており、それらが化学変化を起こすことでエネルギー変換を行っている。この内部構造は、電池セル、電極層、結晶相、界面など空間的規模を縮小することでいくつかの段階に分けることができる。さらに、規模が小さくなるにつれ化学変化も高速化するので時間軸に当てはめて捉えることもできる。このように空間的・時間的スケールを拡大・縮小しながらリアルタイムで電池内部を観測することで、より精密な観測を可能にした。折笠教授は、従来の方法を1つの化学変化を静止した状態での観測を繰り返すことから「写真機」に例え、今回の観測方法を連続して電池内部の動的挙動を捉える「ビデオカメラ」だとした。
現在、日本では省エネ化のために、温室効果ガスを多く排出する化石燃料による発電ではなく、太陽光や風力による再生可能エネルギー(再エネ)を使った発電が推奨されている。しかしこれら再エネ発電は、発電後すぐに利用しなければならないため全国的な普及が難しいと言われている。そのため蓄電技術による安定的な需給を目指す必要があり、化学エネルギーを貯蔵する水素電池などの燃料電池への注目が集まっている。
折笠教授は今後の展開について、次世代のエネルギー変換デバイスへの貢献を掲げている。特に日本で推進されている水素を使った燃料電池車の開発でも今回の解析手法の応用が期待されており、国家プロジェクトの一員としてこれからも研究を進めると語った。
最後に折笠教授は、学生に向けて「自分なりの広い視野と軸を持ち、人と意見を交わしつつ、目標に向かって進んでほしい」とメッセージを残した。(佐野・冨吉)