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【新型コロナの不自由さを解消するのはあなた自身】世界トップオンライン大学「ミネルバ大学」元日本事務所代表語る

ウィズコロナの時代となり、日本の多くの大学でオンライン授業が展開されるようになった。立命館大学もその例外ではなく、春学期の授業は原則すべてオンライン上で行われた。しかし本紙が8月に行った調査では、一部オンライン授業に対する不満の声も挙がった。特に、退学や休学を考えている学生からは「オンライン授業の質が悪い」といった声や「大学生活を送る意味」を問うものが多く挙がり、オンライン授業に関する問題点が浮かび上がったように見えた。

そこで本紙は、世界一のオンライン大学とも言われるミネルバ大学の、元日本連絡事務所代表である山本秀樹さんに「オンライン授業だからできること」や「日本の大学のオンライン授業の限界」についてミネルバ大学の特徴に触れながら話を聞いた。(聞き手:堀ノ内)

出典:Minerva Schools at KGI

ミネルバ大学(アメリカ合衆国)
キャンパスを持たず、全ての授業がオンラインで行われる。全寮制で、学生は在学中、世界7つの都市を巡りながら学習する。入学試験の合格率は2%と言われ、世界の中でもトップレベルの難関校。8割がアメリカ合衆国外からの学生。

山本秀樹氏


元ミネルバ大学日本連絡連絡事務所代表/AMS合同会社代表
慶応義塾大学経済学部卒、ケンブリッジ大学経営管理学修士。AMS合同会社代表。2015年から2017年までミネルバ大学の日本連絡事務局長を務める。著書に最難関校ミネルバ大学式思考習慣』(JMAM)、『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』(ダイヤモンド社)がある。

ーそもそも、ミネルバ大学ではなぜ授業がオンライン上で行われているのでしょうか。

ミネルバ大学における学びは知識のインプットとアウトプットを一連組み合わせとして考えています。なぜなら、人はインプットしても使わない知識は直ぐに忘れてしまうからです。

知識のインプットですが、ミネルバ大学が重視しているのは、専門知識だけでなく、変化し続ける社会で必要とされる、情報判断力、創造的思考力、情報発信力、関係構築力です。そして、このコンセプトを効果的に習得する上でミネルバ大学が必要不可欠と考えているのがオンライン学習システムです。知識を実際に使えるようになるには、実践と高頻度の具体的なフィードバックが必要となり、それを可能にしてくれるのがオンライン学習システムなのです。

ーオンライン授業はどのように行われるのですか。

まずオンライン授業は原則、事前課題を提出し、一定のスコア以上の人のみがが参加できます。このため、授業に臨む「やる気」が一定以上に保たれています。

授業は、全て20人未満のディスカッション形式で構成され、90分の授業時間中、教員は合計で10分以上話すことは原則禁止です。ミネルバ大学ではディスカッションに必要とされる基礎知識は指定された事前課題や世の中に1万件以上存在する無料教材を学生が自ら調べ、十分な知識を持った上で、参加することが期待されています。

授業はその日の学習目的と注意して取り組むべき点についてのガイドラインが解説されたのち、事前課題の理解度をチェックする簡単なクイズから入ります。答えのない問いに対して「どのような立場をとるか」といった問いを立て、学生に投票させることもあります。次に4、5人でグループワークを行い、課題に対して、それぞれの意見を共有します。そして、最後にクラスでの学びの成果を確認、共有します。ディスカッションの結果、自分の考えはどう変わったのか、といったクイズで終わります。

ー学生に対するフィードバックはどのように行われるのでしょうか。

クラスが終わると、教員は授業中の学生の発言を一つひとつ拾って、学習目的をどれくらい実現できているかフィードバックする作業を始めます。テンプレート化された評価だけでは学生はやる気を失うので、学生個々人に合わせたアドバイスを提示していきます。
これは、授業が録画・再生できるオンラインシステムだから可能なことで、対面式授業でおなじことはできません(発言のたびに議論を遮って評価なんかできませんし、授業後に全ての学生の発言内容を正確に覚えておける人などいません)。

こうして教員がおこなった評価は全てデータとして集積され、科目の枠を超えて、全教員が、どの生徒にどのようなアドバイスを実施した結果、どれくらいコンセプトの習熟度が向上したか、という情報を共有し、毎週の教員ミーティングで、向こう3週間分の授業方法に反映されます。授業で得られたデータは学生がどのようなアウトプット(プロジェクト学習)を必要としているか、という理解にも役立ちます。

ーずばり、ミネルバ大学におけるオンライン授業のメリットとは何でしょうか。

オンライン技術を活用しているからこそ、個別の学生に事実に基づく高頻度なフィードバックを提供でき、また事実に基づいた習熟度分析の教職員間での共有、教授法や授業設計への迅速なフィーバック・サイクルを実現できているのではないでしょうか。

そして授業だけでなく、学生の学びとキャリアへ、取得できたデータを活かすという大学運営まで考えると、オンラインだろうとオフラインだろうと知識の伝達を「授業」だと考えている大学とは大きな差が生まれてくるでしょう。

学生にとって授業がオンラインかどうかは、魅力というよりは不安要素の一つですが、実際にやってみると効果的な学習を実感できること、また、学生は同じ寮で生活していて、オフラインの社会活動やプロジェクト学習もたくさんあるので、それほど不自由には 感じないようです。

ーオンライン授業を成立させるための必要な条件とは何でしょうか?

インフラ整備、快適な通信環境を整備して、一人一台のPCを持っていること、というのはあまりにも前提条件なので、言及するまでもありません。

オンラインでもオフラインでも、「学生にとって何を学ぶことが大事なのか?」という発想は教職員にとっても、学ぶ側の学生にとっても大事でしょうね。

ーミネルバ大学と、現在の日本のオンライン教育を比較して考える際に注意すべき点はありますか?

そもそも、ミネルバ大学では、「オンラインシステムを何のために使うか」という出発点が日本の大学を含めた既存の大学とは異なります。これはどちらが良い悪いといった比較ではなく、学習スタイルやアプローチの違いの問題です。

そのため、ミネルバ大学のオンラインシステムを導入すれば、同じような学習効果が得られると勘違いしてはいけません。

学習の科学に基づいた教授法やカリキュラム、「学生の学びを軸とした大学運営」というのは「研究活動を主に行い、その成果を社会に還元する」ことを目的にした多くの既存大学の運営とは異なります。目的が異なれば、その手段の選び方も変わってきます。

ー日本の多くの大学が、春からオンライン上での授業を展開してきていますが、限界はあると感じますか?

立命館大学新聞社における休学や退学の調査結果は特別驚くことではないと感じています。
実際、ハーバード大学では新入生の約20%が今年の入学を延期することを決めていますし、他大学でも通常の年よりも多くの学生が入学辞退または延期を選択しています。

こうした理由がオンライン授業にどれほど起因するのかについては、より詳細な調査が必要でしょうが、少なからず影響はしているでしょう。

今まで行ってきた対面式の授業がベストであり、オンライン授業はあくまで補助的な役割である、と大学が考えているのであれば、一部の学生から不満をもたれるのは仕方ないことですし、不満を抱く学生が、別の大学に転校することはあり得るでしょう。
「限界」は個別の学生が決めることです。

大学は許可されて入学した、という一面はあるかもしれませんが、そもそも、学生は、将来、自分が思い描いた未来に必要な能力をどのような経験を通じて学びたいかを考えて大学を選択したという一面もあります。もちろん、先生の推薦や親の期待で大学進学を選んだ人もいるでしょうが、一生、そうした人達の助言に従って生きるわけにもいきませんから、自分で考え、行動する良い機会を得たと思えばよいでしょう。

「限界」を感じたら、自分達でどのように授業を設計すべきか、考え、実行すれば良いと思います。ミネルバ大学の創立者であるベン・ネルソン氏は、ペンシルバニア大学大学1年生の時に、 今までの一般教養のあり方に疑問を抱き、Preceptorial という「学び方を学ぶ」講座を設計し、賛同してくれた教授達と一緒に提供しました。単位にはなりませんが、いまでは、学生の1/3が受講する最も人気のある講座の一つだそうです。

そこまでやってみても、自分の中での「限界」が解消されないのであれば、今の大学や、そもそも「大学」にこだわる必要すらないのでは、と考えます。

ーウィズコロナの理想の大学教育とは何でしょうか、山本さん自身の意見をお願いします。

ウィズだろうがウィズでなかろうと、学生が自立して世界を渡り歩いていける実践的な学びが育まれる学習環境を実現した学部教育、また、世界広しと言えども、そこでしか得られない研究活動が行われている、と確信できる修士以降の研究が行われる大学が理想ですね。

ー最後に、学生へメッセージをお願いします。

未知の状況に挑戦するのは、大学教授であろうと、起業家であろうと政府の役人であろうと、とても難しいことです。流れ作業のような誰かが設計してくれたものをこなしていけば、「皆と同じ、普通の人」の仲間入りをするだけです。

新型コロナは多くの人に不自由な環境をもたらしましたが、その不自由さを解消するのは、誰かではなく、あなた自身である、というマインドセットをもって活動してみてはいかがでしょうか。

本当の学習は「今、自分に本当に必要な能力」を自覚することから始まります。

変化に対応するのではなく、変化を創る側に一つの正解ではなく、複数の成長シナリオを描き、実践経験を重ねて、仲間を獲得し、回復力の強い人になってください。

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