日本将棋連盟に所属する女流棋士・武富礼衣(たけどみれい)女流初段(心理4)が本紙のインタビューに応じた。武富さんは2018年に女流棋士となり対局に挑む傍ら、将棋普及活動にも尽力している。現在、同連盟が開設した新将棋会館建設クラウドファンディングチームの一員としても活動中だ。(村形、取材日:11月22日)
前編はこちら。
―将棋普及活動はどのような思いで取り組まれているのでしょうか。
地元の佐賀ではイベントやプロ棋士がくる機会があまりありませんでした。そのため子どものころはイベントのために熊本や大阪に行っていました。女流棋士としてイベントに参加するたび、初めて棋士の先生に指導対局を受けたときや将棋ファンとして将棋を観戦していたときの気持ちを思い出します。
今は自分が発信する側にいるということを考えると、他の人に将棋の魅力を伝えることができる喜びを感じます。またファンの人より自分が楽しんでいるのではないかと思うほど、イベントを楽しんでいます。自分自身が楽しんでいると、見ている方々も楽しんで下さっていると感じるので、これからもこのスタイルでやっていけたらと思っています。
―将棋会館に対する思いやクラウドファンディングチームでの活動内容をお聞かせください。
小学3年生の頃から全国大会などで将棋会館で対局をしていました。私にとって将棋会館は思い入れが深く特別な場所です。
クラウドファンディングのチームでは、返礼品のアイディアを考えたり、どのような会館にするのかということを議論したりしています。自分がこのプロジェクトに携わり、将棋を愛してくれる人が増えればという思いを持って活動しています。
現在の将棋会館は、私たちの先輩方が作ってくださったものです。今、将棋界にいる私たちも、一致団結して頑張りたいと思っています。
―4回生になられて、卒業論文では「棋風と性格」というテーマで研究をされていると伺いました。この研究はどのようなものなのでしょうか。
棋風と性格に関係性があるのかということは、昔から気になっていたことでした。棋風というものは将棋における性格みたいなものです。たとえばスポーツのポジションや戦術などに近い、その人の個性の出るところだと思います。
今回は、その棋風を、棋士が指した対局の記録である棋譜から抽出して、性格との相関について研究しました。棋風のデータ分析では、たとえば「この棋士の先生は桂馬を動かした回数が他の方よりも多かった」など駒の使う頻度や、駒の回数を見ました。
将棋をプレイヤーとして見ていた今までの視点から少し離れることで、客観的に棋風をデータとして分析することができました。自分の好きな将棋と心理学を組み合わせた研究をやっているうちに「こんなに将棋って心理学とかかわりがあるんだ。将棋ってこういうところから掘るともっと楽しいんだ」と思い、将棋の魅力をたくさん感じることができました。
また心理学もより深く学びたいと思うようになりました。卒論に取り組むなかで、学ぶことの大切さや知ることの楽しさを感じました。自分の人生の中で一番情熱を傾け多くの時間をかけてきた「将棋」のデータを使い、大学で学んだ心理学と絡めた研究をできることがいかに幸せなことかを実感しています。卒論だけにとどまらず、これからも研究をしたいと思ったほどです。
―対局と普及活動に対する目標を教えてください。
対局は、どの棋戦も、一生懸命、一局一局挑むのみです。白玲戦はクラスが決定してから1期目となるので、まずは現在のB級という場で自分がどれだけ成果を残せるか、成長できるかという戦いになると思います。自分と向き合った分だけ結果はついてくると思うので、しっかり自分と向き合いながら戦っていきたいです。自分の弱点を着実に改善して、A級入りを目指したいと考えています。また他の棋戦においても本戦入りが当面の目標になります。
もう少し学生時代に結果を残すべきだったという思いもあります。しかし後悔をしてもどうしようもないので、自分なりの勉強法でタイトル挑戦、そしてタイトル獲得といった大きな目標に向けて一歩一歩頑張るしかないと考えています。
普及活動においても、自分の活躍が普及につながると考えています。普及活動をする上でも自分の実力が無ければ発信力にはつながらないと思っています。地元である佐賀にも良い報告をしたいです。
またイベントや解説の聞き手などで自分が発信する際には、将棋には伝えきれないほどの魅力があることを、自分も楽しみながら皆さんに伝えていきたいです。幼い頃の気持ちを思い出し、将棋ファンの方々の気持ちをくみ取りながら活動することを大切にしていきたいと考えています。
1999年5月25日生まれ。佐賀県佐賀市出身。中田功八段門下。2016年、女流3級。2018年、女流2級。同年、女流初段。女流棋士番号は60。