立館館大学新聞のコラム欄「海神(わだつみ)」。記者が日々の思いを語ります。
その丸い実はまだ青く、厚いガラス瓶の中を氷砂糖と一緒に静かに泳いでいる。飲み頃にはまだ程遠いのに、何度も手に取って揺すってみては、舌に広がる甘い香りを思い浮かべてしまう。
梅酒は、古くから日本で愛されてきた定番の常備酒だ。質の高い既製品が数多あるにもかかわらず、毎年多くの家庭で梅酒が作られるのは、味や風味を自分好みに調整できることの他に「変わりゆく」楽しみがあるからではないか。青く硬かった実が小さく萎んでいくのと引き換えに、透明だった酒は少しずつ琥珀色に移ろう。味も香りも、月日を数えるほどに深く芳醇なものになる。日々起こる僅かな変化が、飲み頃への期待を大きくさせる。
時が経つほどに深みが出る、というのは人間も同じかもしれない。年を重ねるとともに得た知識や経験は、人の内面を豊かにする。しかし梅酒と違うのは、ただ寝ているだけでは何の変化も起こらないというところだ。毎日の小さな努力の積み重ねが、人間の成長には欠かせない。どれだけ自発的に学び、交流し、行動したか。それが将来の自身の味を決めることになる。
同じ製法で漬けても、仕上がりは毎年微妙に異なる。飲み頃になってはじめて、積み重なった変化がどのように結実したのかを知る。この梅酒の飲み頃に、私は一体何をしているだろうか。今日の私よりも、少しでも深みのある私になれていたらいいな。そう願いながら瓶を眺める。今年の梅は、例年よりも少し大ぶりだ。(波多野)