関西演劇界の聖地として有名な劇場・アイホールは、市に多額の改修費などを理由に大規模な事業転換を検討されており、事実上の廃館になるとして存続が危惧されている。
伊丹市立演劇ホール(伊丹市)は1988年、兵庫県伊丹市に同市の掲げた文化都市政策の一環として開設された舞台芸術専門の劇場であり、アイホールの通称名で親しまれてきた。
同館は舞台と客席の床の高さを自由に設定できる床昇降機構の採用など、創造活動を押し広げる特徴的な設備を擁し長年、小劇場演劇の表現場として親しまれてきた。また、中高生の演劇祭「アイフェス」の主催や戯曲の執筆講座など演劇教育にも注力し、今もなお関西の演劇文化振興を支えている。
伊丹市は同館に収支の差額を指定管理料として支払うことで運営を行ってきた。しかし今年6月、市が劇場の別用途を探るために民間企業から新事業のアイディアを募集する市場調査を開始。これは4億円にのぼるとされる改修費や市民利用率の低さから、従来の舞台芸術を中心とした事業に限界が来ているという判断に基づくものであった。市場調査の結果、クライミング・アスレチック施設などスポーツ文化にも特化した形で改修し、市民の交流を図る事業案が提出された。
しかし、用途転換がされると演劇ホールではなくなってしまうため、事実上の閉館になるという声が上がった。この状況を受けて演劇関係者を中心に「アイホールの存続を望む会」が発足。8月時点で、8052人の反対署名を集め、市に対しアイホール存続の意志を示した。また9月14日に日本劇作家協会会長の渡辺えりさんが伊丹市に来訪。市長に意見書を提出し存続を訴えるなど、本問題に注目が集まった。
しかし11月17日に市が今後3年間は存続を決定したものの、来年度の文化庁補助金は申請せず、事業費のカットする方針を発表。助成金に頼っていた戯曲講座などの自主事業を実施することが難しくなるため、同館は貸館のみで運営する予定だとしている。
この問題について、アイホールの存続を望む会の代表で劇作家・演出家の小原延之さんは民間企業導入によって危惧される公共性の低下について「同館は国からの助成金をうまく活用し、派遣された演劇人が小中学校で体験学習を行うアウトリーチ事業など、さまざまなアプローチを可能にしてきた。しかし民間企業による運営はコンパクトな経営を目指すことが予想され、こうした市民が基本的に無料で体験できる演劇教育が縮小するのではないか。利用料を払うことでしか演劇を経験できない事態になってしまうと、演劇を知る人口層が限られてしまい文化自体の衰退にもつながる」と話した。
一方で市は全体の約15%に留まる市民利用率の低さから、劇場運営が市民にあまり還元されていないのではないかと指摘している。この点に関して、小原代表は「同館は当初、市外からの来館者を呼び込むインバウンドを狙って開館されており、市民利用率の向上が目的の中心ではなかった。しかし演劇人がこの点についてあまり注視していなかったことも事実。この点を反省し現在、市民団体などに本問題について直接呼びかけを行なっており、同館存続への賛同者も得ている。市民がボランティアなどの形で劇場運営に参加し、アイデンティティになるような劇場を作り出すことが理想だ」と語った。(冨吉)