本学大学院生命科学研究科D2の松原翔吾さん(日本学術振興会特別研究員)と同研究科の民秋均教授は、光を当てることによって光合成色素を集積化させるシステムを開発し「クロロゾーム」と呼ばれる光補集アンテナの成長過程を世界で初めて可視化することに成功した。
フィル分子が集まって形成されたチューブ状の構造を持った色素集積体であることは、民秋教授らの研究グループによって今までに明らかにされていたが、それがどのようにしてクロロフィル分子を集積し、形成されているかということについては解明されていなかった。
これまでにもクロロゾームのような色素集積体(以下、クロロゾーム型色素集積体)の人工的な調整は可能であったが、従来の方法で調整したクロロゾーム型色素集積体だと天然のチューブ状構造のクロロゾーム型色素集積体ではなく、生体環境とは異なった粒子状構造の集積体を優先的に形成してしまっていた。クロロフィル分子が徐々に集まっていくことで秩序だったチューブ状構造をとる天然のクロロゾーム型色素集積体の成長過程を実際に観測した例は無く、観測方法すら確立されていなかった。
本研究では、生体環境と同様にクロロフィル分子が徐々に集積していくシステムを人工的に再現することによって、従来の方法では困難であったチューブ状構造の色素集積体を直接的に形成することに成功した。徐々に集積し、チューブ状構造の色素集積体を形成する過程は、まさにクロロゾーム内で色素集積体が成長していく過程をモデル化したものであり、クロロゾームの成長を可視化した初めての例となった。
本研究の成果は、クロロゾームの形成過程の解明や、様々な生体器官の形成過程を分子レベルで可視化し解明していく研究へと発展していく可能性も示しており、新たな研究の種として高い評価を得ている。(花田)