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第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞 茜灯里助教インタビュー Part1

本学総合科学技術研究機構に所属する茜灯里(あかねあかり)助教が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した。この賞は、新しい才能と野心にあふれた新人作家発掘のため、一般財団法人の光文文化財団が毎年公募しているもの。人とウイルスとの戦いを描いた受賞作「馬疫」は今年2月に書籍化もされ、話題を呼んでいる。

日本ミステリー文学大賞新人賞 贈呈式の茜灯里助教

舞台は、新型コロナウイルスの流行が収まった日本。いまだパンデミックの渦中にあるパリに代わり、2024年もオリンピックは東京で開催される予定となっていた。しかし五輪提供馬の審査会で、突然複数の馬が、新型でありかつ人を襲う狂騒型の馬インフルエンザを発症する。果たして五輪は無事開催されるのか。未知のウイルスに絡む黒幕の思惑とは。社会と科学をテーマに世相を反映したストーリーと、未知のウイルスに毅然(きぜん)と立ち向かう主人公の姿が、本作の魅力となっている。

茜灯里助教に行ったインタビューを、2週に渡って掲載する。
第1回目となる今回は、受賞の喜びや作品の裏側などについて話を聞いた。

 

〇日本ミステリー文学大賞新人賞受賞に対するお気持ちをお聞かせください。

─本心で言うと、ほっとしました。私は元新聞記者で、退職した後もずっと「書く世界に戻りたい」と思っていたので、新人賞の受賞をきっかけに、その願いがかなうと思うと、安心したという気持ちが一番大きいです。

 

〇執筆活動をはじめられたきっかけを教えてください。

─文章を書くことに興味を持ちはじめたのは、中学生のときです。アイザック・アシモフというSF作家の科学エッセイを読んで「私もこんな文章を書けるようになりたい」と思ったことがきっかけでした。

文筆に関わる仕事に就くという夢は、新聞社に入社し、科学記者になったことで一度は達成されました。しかし次第に「紙面には限られた情報しか載せられない」ということに歯がゆさを感じはじめました。新聞という紙の上では、枠も限られていて、取材相手の人物像や人となりを、記事にすべて詰め込むことは難しいです。また、取材中に「今はこんな風に話しているけれど、内心では違うことを考えているのかもしれない」「言葉の奥底にもっと伝えたいことがあるのかもしれない」というようなことを考えることもありました。そして、私はノンフィクションの新聞記事よりは、小説のような、枠にとらわれずに人の内面を自由に描けるものを書きたいのではないか、ということに気が付きました。これが小説家を志したきっかけです。

ただ、当時は社会人になりたてで、書きたいという気持ちはあっても、なかなか行動に移すことができませんでした。新聞社を退職した後も、大学教員の仕事をはじめたり、大学院に戻って博士号を取ったりしていると、生活は忙しくも充実していて、小説を書きはじめるきっかけが掴めないまま、何年も経ってしまいました。

転機は、2019年に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)という文部科学省の組織でワーキンググループのリーダーになった際に訪れました。その仕事は半年間休みが全くない程忙しく、毎日研究の傍ら、朝から晩まで予定調整のメールを打ったり、報告書や申請書を書いたりして過ごしていました。そんな多忙な日々のなかで、ふと「私って、今後一生報告書と申請書を書き続けるのかな」という想いが頭をよぎりました。そして「いや違う、もっと書きたかったものがあるはずだ」ということを思い出し、今書かなければこのまま一生終わってしまう、という危機感に後押しされながら、何とか時間を作って小説を書きはじめました。

 

〇受賞作「馬疫」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

─職業として小説家を目指すのならば、同人誌などではなく、商業出版という形でデビューしなければ注目してもらえません。そして、商業出版を目指すなら、やはり新人賞に応募する必要があると考えました。

「馬疫」は、小説を書きはじめてから2本目の作品になります。2020年の2月半ばから3月半ばまでの1か月間くらいで書きあげました。日本人が新型コロナウイルスに対する危機感を持ちはじめた時期です。また、この作品ではオリンピックが大きなテーマの1つとなっていますが、ちょうど「東京オリンピックが延期になるかもしれない」と噂されていた時期でもあります。

書いている間に、世の中が「コロナ禍」と呼ばれるようになってしまった。パンデミックを主題にした作品を「今」応募してよいかは悩みました。

 

〇今作で馬をテーマに選んだ理由を教えてください。

─日本ミステリー文学大賞新人賞に応募する前に、過去の選評を読みました。そのなかに「新人賞を獲るには突破力が必要だ」という一文がありました。飛びぬけた文章力や新鮮なテーマなど、誰にも負けないと言えるようなところを特色にしたものでなければならない。新人賞というものは、これまでにない作品や小説家を見つけるためのものだから、どこか既視感を覚えるものや、まるであの人が書いたようだ、と思われるような作品を出しても意味がない。個性的で、人よりも秀でている部分があると思わせるような作品こそ受賞できるのだ、とその選考委員の方はコメントしていました。

それなら、私には馬術の選手や馬の獣医をしていた経験がある。競技について詳しいし、仔馬を取り上げたことや、瀕死になっている状態の馬を見たことだってある。馬だったら説得力があって、誰にも負けない作品が書けるんじゃないかな、と思い、題材に選びました。

 

〇今作からは、先生の「馬」に対する愛情を強く感じました。馬を好きになったきっかけを教えてください。

─中学生の頃、馬術部に入部したかったのですが、両親に危ないからと強く反対され、結局活動に参加することができなかった、という経験があります。その後社会人になって、仕事が激務で疲れて病院にいったとき、お医者さんから「気晴らしに運動でもしてみたら」と勧められました。そのときにふと、中学生時代にやりたかった馬術のことが頭に浮かんだのです。もう成人して、お金も自分で稼ぐようになったのだから、好きなことをやってもいいかな、と思い、さっそく始めることにしました。

始めるとすぐにハマってしまい、いい馬と出会えた、ということも相まって、1年が経つ頃には全日本大会で優勝することができました。私がやっていた競技は、簡単に言うと馬のマラソンで、長いときは100キロ以上走ることもありました。大会に出る前のケアももちろんですが、走っている途中にも馬の体調や足のことを考える必要があります。

全日本大会優勝がきっかけで海外に遠征へ行くようにもなり、海外の獣医師と知り合う機会も増えました。海外の獣医師は、とりわけ馬の体や心を気遣っていました。体をマッサージしてあげたり、リラックスのためにハーブを嗅がせてあげたり。また、病気になってから治そう、ではなく、そもそも病気にならないようにしよう、という考え方から餌にも細かい配慮がなされていました。そんな獣医師たちの姿を見て、私もこんな風に馬を気遣えるようになりたいと強く思いました。その後、学士入学で獣医学を学び、獣医師の免許も取得しました。

こんな経験から培われた馬への愛情が、やっぱり書く文からもにじみ出るのかな、と思います。

 

【サイエンス・ライティング講座(入門編)のお知らせ】

茜灯里助教が講師を務める「サイエンス・ライティング講座(入門編)」が5月19日より開講している。

【概要】
本学が中核機関となっている文部科学省COIアクティブ・フォー・オール拠点主催において、全国から無料で視聴できる「サイエンス・ライティング講座」をウェビナーとYouTubeで配信します。講座名は「サイエンス・ライティング」ですが、科学トピックスのみを扱うという意味ではなく、「書き方のコツを科学的に分析して」わかりやすい文章を書くことを目指します。未来を切り開く若手研究者育成を目的としておりますが、若手研究者をはじめ、学生、教職員、会社員、一般の方々など、どなたでも受講可能です。文章を書くのが苦手な方、伝え方のポイントを学びたい方、レポートや報告書で効果的に書きたい方など幅広くご参加をお待ちしております。

【日程】
2021年5月19日(水)~6月23日(水) 毎週水曜日18:00~18:45(全6回)

【詳しくははこちら】
http://www.activeforall.jp/science_writing

次週は、茜助教の学生時代や本学での取り組みなどについてを掲載する。(波多野)

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