立命館大学新聞のコラム欄「海神(わだつみ)」。記者が日々の思いを語ります。
冬になると思い出す味がある。それは祖母と寒い夜に飲んだミルクセーキの味だ。
毎年冬の風が肌に染みるとき、祖母が「温かいの買っておいで」と言い小銭を渡してくれた情景をふと思い出す。当時の自分は自販機のラインナップに無難なココアなどがある中、聞き馴染みのないミルクセーキを選んだ。今考えると珍しいミルクセーキを選んだからこそずっと印象に残っており、今まで覚えているのかもしれない。
またこれと似た現象で特定の匂いを嗅ぐことで、その時の記憶や感情を思い出すことがある。例えば金木犀の匂いから学校からの下校、汗ふきシートの匂いから部活動を思い出すなど人それぞれ匂いから思い出すことがあるだろう。このような現象を「プルースト効果」と呼ぶらしい。
そして味覚でも嗅覚でも何かを引き金として大切な記憶を思い出すことはとても素敵なことだと思う。あの頃の自分はどのようなことを感じ、過ごしていたのか客観的に振り返ることができるのと同時に懐かしい感情から何とも言えない幸福感に包まれるからである。
冬になると思い出す味がある。祖母はもうこの世にはいないが、冬の寒さを感じると一緒に過ごした思い出と共に側に居てくれるような温かみを感じ、そんな冬が大好きだ。だからこの先も冬を迎えるたび、あの懐かしい味を思い出すのだろう。
(今井)