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大阪・ミナミ「グリ下」に集まる若者 アフターコロナの今は

西日本最大級の繁華街である大阪・ミナミにあるグリコの看板の下、通称「グリ下」(大阪市中央区)。そこはさまざまな事情を持つ若者が居場所を求めて集まる場所として知られている。グリ下はコロナ禍、SNSを通じて知り合った若者が交流する場として形成された。しかし、グリ下での交流は危険性もはらんでおり、未成年の飲酒や喫煙、闇バイトや性犯罪、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)などの問題が身近に発生している。

若者が集まる夜のグリ下

これらの状況を受け、大阪府南警察署や地元の商店会は昨年3月に街頭防犯カメラと犯罪抑止を図る横断幕を設置。事件や事故の防止を図るとともに、事件や事故に巻き込まれた際には映像を確認してすぐに対応できるようにした。一方で、防犯カメラの設置に対して「監視されているように感じる」などの声もあり、設置によって若者がグリ下から離れ、分散化して見えづらい場所へ行ってしまうのではと懸念する意見もあった。

グリ下に設置された横断幕

グリ下の若者を支援してきた認定NPO法人「D×P(ディーピー)」の野津岳史さんはこの件について、犯罪に巻き込まれやすい状況に対して手を打つことは必要だとし、その上で「自治体や地域の商店の方と情報共有など連帯しながら対策している。防犯カメラや警察の見回りがあるから若者が集まりにくくなるなどと一面的に批判するのは違う」と話した。犯罪防止の活動と並行して必要な居場所作りや一人一人の必要な福祉のサポートにつなげることが大切だという。

D×Pは社会課題である「10代の孤立」について取り組む認定NPO法人。社会から孤立した10代はセーフティーネットにたどり着くこと自体が難しいとされる現状を変え「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指して活動している。

グリ下付近に設置されたフリーカフェ(D×P提供)

その事業の一つとして2022年8月からグリ下付近にテントを立て、若者が自由に使えるフリーカフェを試験的に始めた。テントではお菓子や飲み物、生理用品やコンドームなどの無料配布を行いながら、若者と対話をし、つながりを作る。しかしテントでは天候などの環境に大きく影響を受けることや落ち着いて話をするのが難しいことを受け、昨年6月にユースセンターを開設した。ユースセンターはグリ下から徒歩5分圏内のビル内にあり、食事の提供も行われている。繁華街に位置するユースセンターは全国でも希少。

ユースセンター内部の様子(D×P提供)

野津さんは「支援する、される」という関係ではなく、「人と人」としての関係性を築くことが大切だと繰り返す。ユースセンターで一緒にゲームをしたり食事をしたりと時間を過ごす中で「何か困っていることがあれば手を貸せる範囲で力になる」と伝えているという。

時にD×Pは行政や他の支援機関に若者をつなげる役割も担う。その際も大人に不信感を抱く若者もいるため、そこに行ったら何ができて逆に何をしなくてはいけないかなど詳しく説明をしたり、付き添ったりするという。

昨年、年末にかけてグリ下、また新宿東宝ビルの横、通称「トー横」(東京都新宿区)などで警察による一斉補導が行われた。年齢を確認して保護者と連絡を取ったり、帰宅を促したりした。冬休みに入った若者が犯罪に巻き込まれるのを防ぐ目的である。

グリ下など歓楽街の若者について研究している濱田龍河さん(社会学研究科M1)は「単純に規制することは根本的解決にはならず、さらなる深刻化を招きかねない」と指摘する。家庭に居場所のない若者を家に帰すことは虐待の再被害、またさらなる本人の孤立を強め、見えない場所で危険にさらされる可能性もあるという。安全な居場所作りの重要性を語った。

取材に応じた濱田さん

野津さんはグリ下の若者が「問題のある子」という声にさらされることへ疑問を抱く。彼らの多くが大人に声を聞いてもらえなかった経験がある中で、自分たちで居場所を求め、作り、そこを維持しようと努力していると話す。そんな彼らはそれぞれ事情を抱えながらも可能性や力を持っているという。また野津さんはこれらを「若者側の問題」としてではなく、声を聞いてこられなかった「社会の仕組みの問題」として捉える。そして「若者の声を掬うことができる社会の仕組みを作っていきたい」と語った。

取材に応じた野津さん(左)(D×P提供)

 

(井本)

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