■安全対策強化、再発防止に向けて
これらの課題を踏まえ、保津川遊船企業組合はさらなる安全対策の強化に踏み切った。具体的には、事故前には85センチとなっていた運航休止の基準水位を、事故時の水位が基準以下の69センチであったことから65センチまで引き下げた。豊田さんは、基準の厳格化による運行可能日の減少は売上の面では打撃だとしつつ「もしもの事態に備えることが必要だ」と対応の意図を説明した。このほか、船頭の落水対策も行われ、舵持ちの落水防止のためのストラップや安全ロープ、舵の落脱防止のための装置も設置された。
また、乗客の救命胴衣の更新と着用の徹底も行われた。今まで使用されていたベルト型の救命胴衣は廃止され、冬期はベスト型の固型式救命胴衣、夏期は肩掛け型の自動膨張式救命胴衣の着用が乗船の条件になる。救命胴衣を正しく装着できない身長80センチ以下の人については今後、乗船を断るという。
■運航再開、紅葉シーズンへ
事故から3カ月を迎える7月19日、保津川下りは運航を再開した。豊田さんは再開に踏み切った理由について、安全対策の見直しを実施できたことに加え「多くの方々から再開を望む応援をいただいたため」と話している。
再開後、保津川遊船企業組合では安全対策を記載した「保津川下り安全パンフレット」の配布を行っている。豊田さんはパンフレットの内容について「理解していただくのは難しいと思う」としつつ「どのような安全対策を行うか、多くの人に知っていただき信頼を取り戻すのが使命だ」と語る。
死者を出した事故の影響は大きく、例年予約の多い修学旅行生は90%以上がキャンセル、年間2万人ほどを予定していたが本年度は2千人を切るまでになったという。しかし、運航再開の翌月には、コロナ禍以前である2019年の60%程度にまで乗船人数が回復。再開から9月末までの間に約3万4千人の観光客が訪れている。
保津川下りでは例年、紅葉が見頃を迎える11月下旬に一年で最も多くの観光客が訪れる。豊田さんは保津川下りの魅力について、保津峡の美しい景観やスリルある急流、静かで水鏡になる深淵を堪能できることだという。また江戸時代から継承され、亀岡市民俗無形文化財に指定されている船頭の操船技術を魅力の一つに挙げ「船を操船する船頭の操船技術は圧巻だ」と話す。
保津川下りの歴史は400年以上続き、現存する船下りでは日本最古の歴史を持つ。丹波の特産品を運ぶ水運として始まった保津川下りは、明治に入り観光客が乗る遊覧船と移り変わり、英国王室などの国賓が乗船したこともあるという。豊田さんは、京都の大学には府外から来ている学生も多いことに触れ「京都で過ごす4年間で、アトラクションであり伝統文化でもある保津川下りをぜひ体験してほしい」と語った。
(小林、小室)