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本学に宇宙地球探査研究センターESEC(イーセック)設置 宇宙インフラの整備に向け、日本初

7月1日、本学に宇宙地球探査研究センター(以下、ESEC)が設置された。ESEC(イーセック)は、月や惑星における人類の生存圏拡張、居住・生活圏構築に先駆けた探査拠点となる宇宙開発・インフラ構築の研究に取り組む日本初の研究組織。

ESEC設置にあたり、センター長を務める佐伯和人先生と、副センター長を務める本学理工学部教授の小林泰三先生に話を聞いた。

ESECセンター長の佐伯先生(右)と、副センター長の小林先生(左)

ESEC設置の背景

佐伯センター長は、ESEC設置には二つの背景があるとする。

一つは、月にある氷資源を巡る世界各国における宇宙研究の機運向上。月の北極・南極は太陽光が届かないため、そこに存在するクレーター内には多くの水が氷として眠っているとされている。そして、アメリカ航空宇宙局(NASA)の月面有人探査計画「Artemis Ⅲ」や日印共同の月極域探査ミッション(LUPEX)など、月の氷資源は世界規模で注目を集めている。佐伯先生は、現代を人類による月や宇宙での経済活動の先駆けの時代と語り「人類史のターニングポイント」と表現する。

もう一つは本学の掲げる「R2030チャレンジ・デザイン」で示された「次世代研究大学」だ。学内から宇宙の研究に取り組む研究者や宇宙に興味を持つ研究者を集め、組織となることで研究者間の相乗効果を図り、学外にも本学の研究を知ってもらおうという経緯があったという。

現代を「人類史のターニングポイント」と表現する佐伯センター長

ESECの特徴①「日本初」宇宙開発の第2フェーズとは

ESECの最たる特徴は、宇宙惑星における生存圏の構築および居住・生活圏構築のためのインフラ整備を中核的に担い、研究する点にある。

ESECは、宇宙開発を3つのフェーズに独自に分類。第1フェーズは「発見型」の宇宙探査で、宇宙観測やロケット・人工衛星の開発がこれにあたる。現在、第1フェーズの研究は多くの研究機関によって取り組まれている。第3フェーズは宇宙における都市開発。これも先行する研究が散見されるが、実現には約30年を要すると佐伯センター長は指摘する。

ESECが取り組むのは、この間の第2フェーズ「探査の展開・生存圏の構築」だ。月・火星といった地球以外の環境へ降り立った探査を想定し、探査機の持続的な利用のための設備や、有人探査におけるベースキャンプ、それらを機能させるための宇宙資源の利用やインフラ整備などが挙げられるとのこと。これら第2フェーズにおける研究は、第1フェーズのような探査からは発展しつつも第3フェーズの基礎ともなるものであり、ここに焦点を当てた研究組織はESECが日本初となる。

宇宙開発の3つのフェーズ(提供:ESEC)

また、ESECは「宇宙資源学」「地球・惑星フィールド探査学」などの新しい学問領域の創生も大きなテーマとして掲げている。

たとえば宇宙資源学では、宇宙にある資源はいったいどこから来たのか、そしてこれから先、その資源はどうなっていくのかを研究することを想定する。石油の埋蔵量を研究する「資源開発学」「地理学・地質学」などに相当する学問領域だそうだ。

ESECの特徴②「宇宙の利用」“産学連携”と“多種多様な学問分野”

ESECは既に、第2フェーズへの橋渡しとなる計画に携わっている。それは、日本の小型着陸実証機プロジェクトSLIM(以下、SLIM)と、日印共同の月極域探査ミッション(以下、LUPEX)だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画するSLIMは「月惑星探査の高頻度化」と世界初の「月面への高精度着陸(月面ピンポイント着陸)」を目的とするプロジェクト。佐伯センター長は、月の土壌探査に用いるマルチバンド分光カメラ開発の開発責任者を担っており、9月7日、SLIMの探査機を乗せたロケットが打ち上げられた。

マルチバンド分光カメラによって、調べた月の岩石の組成を地球のものと比較、月の起源を探る。

LUPEXは、JAXAとインド宇宙研究機関(ISRO)との国際協働ミッション。将来の宇宙探査のため、月の水資源の量と質に関するデータの取得と探査技術の獲得を目的とした計画だ。ESECは月極域氷探査用の近赤外画像分光装置の開発を担っており、探査機の打ち上げは2024年以降に計画されている。

この計画での月の水資源の重要データの取得により、 将来の持続的な宇宙探査活動に向けた水利用の可否判断が可能となる。

また、小林先生は、宇宙開発の機運の向上により「人類が宇宙を利用する」時代も到来するが、このような第2フェーズに即した考え方は研究機関よりも企業の方が敏感であると話す。その上で、企業はそれぞれが個別に開発を行っており、これを取りまとめる研究機関は国内に類を見ないそうだ。こういった現状を受け「我々は、一つの拠点を形成して、興味を持った企業との情報交換の拠点になりたい」と第2フェーズの研究を先導する存在としてのESECのビジョンを語った。

宇宙探査の未来を語る小林先生

さらに、ESECに所属するメンバーは、文系理系問わず多種多様な学問分野を研究している。これについて小林先生は「宇宙と地球の環境は密接につながっている。両方のノウハウを交流させることで、地球の探査も宇宙の探査も、より力強くできるようになる」と話し、佐伯先生も「宇宙という未知の環境に対応するには、足りない分野を徹底的に潰していかなくてはならない。そのためにいろいろな分野の専門家を集めている」と続いた。

最近の動向

ESECは8月8日、センター初主催となるイベントを日本科学未来館(東京・お台場)で行い、佐伯和人センター長や小林泰三教授の他に、株式会社ispaceCEO&Foundeの袴田武史氏らが登壇した。産業界、アカデミア、メディアなどの業界関係者ら約70名ほどが参加したという。

8月26日、種子島に滞在しているESEC研究者と立命館慶祥中学校・高等学校(北海道)、会津大学(福島県)、大分県立国東高校をオンラインでつなぎ、小型月着陸実証機(SLIM)の打ち上げに向けたトークセッションを実施した。

ESECはこれからも、こうしたパブリックビューイングや高大連携イベントなどの教育や広報の機会を設けていくとした上で、学部生や学生団体による宇宙分野への活動にも目を向け、歓迎する意向を示した

学生へのメッセージ

最後に、佐伯センター長は「これから宇宙を舞台に経済活動が始まろうとする中、宇宙分野はさまざまな職業・分野が関係していくことになります。宇宙は近い将来自分とも関わるものだと思って、考えを巡らせてほしいです」とメッセージを送った。

小林先生は「これからは地球だけでなく、宇宙を含めた人類の生存圏を考えなければなりません。そのような時代を担うのは今の学生の皆さん」と指摘した上で「自分の視野を広げて、大きな夢を持ってほしいです。また、ぜひ宇宙分野にも興味を持っていただけるとうれしく思います」とエールを送った。
(稲垣、小野)

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