本紙が総長候補者の高山茂氏、樋爪誠氏、松本朗氏の3氏に送付した公開質問状と回答の全文は以下の通り(候補者の回答は五十音順)。

質問1これまでの学園運営の評価

学園ビジョン「R2030」後半期にさしかかる今、これまでの学園運営をどのように評価していますか。

高山茂氏の回答

私はR2030前半期の期間は、理工学部長、副総長として教職員の皆様の協力を得ながら、学生・児童・生徒に向き合い、学園ビジョン「R2030」の計画を推進していく立場にありました。コロナ禍等の不確実性の高い時期を全員で乗り越えるとともに、研究力強化、教学改革、一貫教育、文理融合など、次世代研究大学・次世代探究学園の実現に向けた基盤づくりは着実に前進してきたと考えています。また、学生・大学院生の学びの環境整備も着実に進められてきました。学部教育においては、小集団教育の充実とともに、企業・自治体と連携したPBL、課題解決型学習などに取り組みやすい環境が整備されました。大学院教育においても、大学院学生数の増加や研究環境の充実に加え、アカデミアのみならず企業や公的機関も含めた多様なキャリアパス形成を支援する取組が進められてきました。こうした学生・院生一人ひとりの挑戦を支える環境づくりも、前半期の重要な到達点の一つであったと考えています。これらの取り組みは、特に学園の構成員である、教員・職員、大学院生も含む学生や附属校生に対して、高いレベルの活発な研究活動の必要性、および、そうした研究から生まれる全学園的な成果の還元の意義について、理解を深める取り組みでもあったと思います。R2030の策定時(2019〜2020年頃)には、教育と研究の関係性について様々な議論がありましたが、今日では研究と教育の拡大的再結合の基盤ができつつあると考えており、その成果は、社会の評価においても表れていると感じています。立命館大学における「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」、宇宙戦略基金事業(SX)、APUにおける「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業(SI事業)」に採択されたことの他、科研費の採択件数・同金額の継続的な増加、APUにおけるScopus論文の増加は、全学のたゆまぬ努力のたまものにほかなりません。

また、立命館大学では映像学部、映像研究科、情報理工学部、情報理工学研究科のOIC移転や3キャンパス展開による各キャンパスの条件改善、先端クロスバースイノベーションコモンズ(CVIC)やグラスルーツイノベーションセンター(GIC)といった新たな研究・産学連携拠点の整備、デザイン・アート学部・研究科の構想具体化、国際平和ミュージアムの大規模リニューアル、ユニオンスクエアの大規模改修や現在進めている存心館地下の食施設改修・拡充など、今と未来を見据えた教育研究や学生生活基盤の整備も進みました。さらに、APUにおけるサステイナビリティ観光学部の開設、新教学棟「グリーンコモンズ」や国際教育寮「APハウス5」の整備、一貫教育における探究学習やSTEAM教育・STEAM施設の強化、「タテ」「ヨコ」連携の深化など、総合学園としての強みを活かした取り組みも着実に展開されてきたと考えています。

R2030後半期計画においては、宇宙地球フロンティア研究科(仮称)、立命館未来探究高等学校(仮称)等、の新しい教学・研究の計画とともに、AI時代の大学教育、既存学部・研究科の充実と教育力強化のための予算措置なども計画されています。後半期は、前半期に築いてきた基盤の上に立って、その成果を社会のなかで具体的な価値として実装していく段階であると認識しています。

また、学生・院生や生徒・児童と、学園・各学校のあり方についての意見交換も、R2030の期間で大きく進んでいると思います。学友会や院生協議会連合会との共創活動、APUにおける在学生副学長・高校生副学長制度など、学生の皆さんと一緒に、新たな取り組みを試行錯誤してきました。また、附属校各校との学園としてのコミュニケーションや連携は、私も参加させていただいた立命館憲章の改正に伴う附属校生との意見交換などを通じ、新たな段階に入っていると感じています。

樋爪誠氏の回答

R2030は、R2020を発展させるという形で計画策定が始まりました。中でも次世代研究大学、創発性人材を生み出す大学という総論的目標に向かい動き出し、その都度、目標を確認しながら進められてきており、一定程度目的は達成されていると思います。他方、教育と研究の拡大的再結合という観点については、これらに取り組む教職員の負担が顕在化している感があります。とりわけ、COVID-19対策のオンライン化、学びの多様化は教育の工夫が進む一方、教員のオペレーション増となっていると感じます。実際は研究時間を割いて教育をしている教員も多いでしょう。教育への取り組みと研究の高度化を両立させることはなお課題が多いと考えます。

松本朗氏の回答

学園ビジョン「R2030」は、「挑戦をもっと自由に」(Challenge your mind. Change our future)をスローガンに掲げ、6つの政策目標を定めてきました。その中で、例えば、次世代研究大学の構築、DX推進、ダイバーシティの推進などなどが盛り込まれました。次世代研究大学という点からみれば科学研究費応募支援など現場での努力や成果があらわれているように思えます。新たな学部・研究科の設置、通信制高校の開設、BKCにおける産学官連携・共同利用施設の整備、吉田元総長の際に決断された動物実験施設の稼働など、ハード・ソフトの両面で当初の想定を超える数々の施策が結実しつつあります。

一方で、既存の改修・更新の必要な投資に対してはもっと積極的に取り組む必要があるのでないかと考えます。OICの開設の一つの理由は衣笠の狭あい化であり、施設の老朽化対策であったはずです。既存の教育環境の整備は遅れていないでしょうか、改めて検証する必要があります。

こうした課題があるからこそ、2030年までの残り3年余りとなる今、これまでスピード感をもって進めてきた施策を「PDCAサイクル」の視点から今一度深く検証(Check)することが必要です。これまで「計画(P)」と「実行(D)」を力強く進めてきたからこそ、この終盤の期間を、施策の成果と課題をじっくりと見極める検証「Check」の期間として位置付け、改善「Action」につなげる必要があります。

質問2少子化と今後の学園運営

少子高齢化が進む中、2026年を境に大学進学者数が減少に転じるとも予想されています。「R2030」後半期にもあたり、昨今の文教政策や少子化などの社会情勢を踏まえ、立命館の進むべき方向性についてお考えをお示しください。

高山茂氏の回答

少子化は、今後の立命館学園にとって最も大きな環境変化の一つであると認識しています。18歳人口は長期的な減少局面にあり、立命館大学の主要な入学者層である近畿圏や、APUの主要な入学者層である九州や首都圏においても、今後、少子高齢化の影響を受けるのは間違いありません。また、この傾向は大学だけではなく、初等・中等教育段階ではすでに影響が現れており、学園全体に大きな影響を及ぼすことが予想されています。

しかし私は、少子化を単に学生募集上の課題として捉えるのではなく、R2030後半期においては、多様な人々の学びと成長を支えながら新たな社会的価値を創造する機会として捉えたいと考えています。労働力人口の減少や地域社会の変容が進むなかで、大学に求められる役割はむしろ一層大きくなっています。知の拠点として、また新たに社会人の育成機関として、わが国の持続的発展に貢献することがこれまで以上に求められているからです。

具体的には、小中高大院を貫く総合学園としての強みを活かし、探究学習や課題解決型学習をより発展させながら、将来の研究者や高度専門人材の育成につながる一貫した教育体系を構築していくことが重要であると考えています。また、従来の18歳人口を前提とした発想から一歩進み、多様な学習者を支える教育システムへと発展させていく必要があります。現在、立命館大学・APUでは複数の研究科において社会人を含めた大学院教育の拡充が検討されていますが、こうした取組に加え、リカレント教育の充実などを通じて、一人ひとりの学びのニーズに応え、社会・地域の発展に貢献する新たな本学園の教育像を創出していきたいと思います。

大学運営の面でも、18歳人口の減少を前提とした持続可能な財政基盤の構築が必要です。産学官連携や社会共創、生涯学習、リカレント教育などを通じて、学園の教育研究資源を広く社会に開き、全世代へ還元することにより、新たな価値を創出していくことが重要です。また、2027年度の概算要求を見ると、国の高等教育政策も大学院教育の充実やリカレント教育の強化を重視する方向に進んでおり、後半期計画で検討されている取組についても、こうした外部資金や制度を積極的に活用しながら推進していく必要があると考えています。

樋爪誠氏の回答

少子化の時代に立命館が選ばれるためには、学園全体の取り組みが重要になると考えます。大学に関して言えば、多様な入試により受験生の力が最大限発揮できた上での評価体制の構築がまず大切です。入学後も、個々の学生の探求心を尊重しつつ、全学部に共通した確かな教養力と語学力のかん養が必須となります。文理の区分はもはやなくなり、AIの時代だからこそ確かなコミュニケーション力がむしろ必要となるからです。立命館に行けば、単に就職という意味ではなく人生設計という点でしっかりとしたキャリアが形成できるというビジョンを示し、少子化をチャンスに変えられる力強い人材を養成していくべきでしょう。

松本朗氏の回答

所信表明でも述べていた通り、日本社会は未曽有の少子化に直面しています。学校法人にとってこの影響は深刻です。数年前に法人本部部門との懇談において指摘しました通り、出生数が100万人を割った世代がすでに小学校に入学しており、その波は今後、附属校(小・中・高)から大学・大学院へと確実に広がっていきます。

全国の統計データを分析しても、地域ごとの進学・就学比率はほぼ固定化しています。進学者数の減少を前提にすれば、今後はより多様な背景や学力層を持つ志願者が入学し、ともに学ぶようになります。この変化に備え、附属校から高等教育・大学院に至るまでの一貫した教育体制の在り方、組織の規模や教職員陣容の妥当性・効率性を根本から省み、時代に即した教育・学習環境を再構築していくことが急務です

質問3学費政策と教育環境

物価高が続く中、学生生活は一層厳しいものになっています。公開全学協議会では今後の学費政策も議論されます。学費政策について、お考えがあればお示しください。また、こうした状況を踏まえた学生の教育環境の拡充について、学費や学生支援などのソフト面、キャンパス環境などのハード面の双方から、総論としてのお考えをお聞かせください。

高山茂氏の回答

物価高の進行や先行きの不透明な社会情勢のなかで、経済的負担や将来への不安を感じながらも、だからこそ、立命館で懸命に学び、成長したいという、学生生徒、保護者のみなさんの思いを、重く受け止めています。学費の重み、つまり学費に込められた、そうした気持ちに誠実に向き合うことが、学費を考えるうえでの私の基本的な姿勢です。

一方で、学費政策を考える際には、日本の私学の財務構造をふまえる必要があります。私学財政では学納金が最大の収入源であり、教育研究活動の多くが学生・保護者の負担によって支えられています。教育の質を高めるためには、人材確保や教育プログラムの充実、学習環境の整備が不可欠であり、相応の財源が必要です。そのため、現状の財務構造の下では、ややもすれば、学費負担と教育の質向上がトレードオフの関係に陥りかねないことに留意が必要です。

立命館は、カリキュラム改革や先進的な教育プログラムの開発、学生生徒の多彩な活動を支援する制度の充実を通じて、学費の重みに応える教学展開を実践してきました。また、コロナ禍を経て学びのスタイルがいっそう多様化するなか、R2030以降は、通信・オンライン学習環境の整備や、AI・DX基盤を活用した学習支援・アドバイジング機能の強化を推進しています。さらに、生活・メンタルヘルスサポート、施設のバリアフリー化やアメニティ向上など、安心して学べる環境づくりにも積極的に取り組んできました。教育・学習環境の拡充は多方面にわたりますが、その中で最も重要な基盤は「人」であると考えています。教育の質向上を実現する根本的な源泉は、教職員一人ひとりの教育力、研究力、学生支援力にあり、支出の中で最大の項目は教職員の人件費です。

R2030前半期には教職員のベースアップや有期雇用教職員の処遇改善を進め、その原資は2026年度時点で10億円を超える規模となっています。処遇改善に限らず、学費によって支えられている教育の質向上にむけた取り組みが、日々の授業、ゼミ、研究指導、課外活動支援などを通じて、みなさんの成長実感や学修成果、満足度の向上にどのようにつながっているのかを検証し、さらなる改善につなげていく営みが、これからいっそう強く求められる重要な視点です。

R2030前半期の財政運営では、こうした教育基盤・環境の充実を進めながら、収入に占める学納金依存度の低減と教育活動収支の改善を実現してきました。しかし、学納金が依然として最大の収入源であり、授業料改定がこの間の収支改善に大きく寄与したことも事実です。学費に依存する財務構造からの転換は、立命館だけでなく私学全体における構造的な課題です。立命館は、この難題に挑戦することを掲げています。

立命館はこれまでも、企業との研究連携や公私協力によるキャンパス開設など、社会との連携を基盤として発展してきました。R2030期間には地域の企業や自治体との連携強化とともに、文部科学省、経済産業省、内閣府等との間での協議を複数年にわたって重ねることで、従来にはないレベルでの関係性を築きつつあります。そうした協議の中では、大学院生を含めた修学支援制度をさらに充実させる必要性、人文・社会科学系を含む学問領域の多様性を維持・発展させることの重要性、高校から大学、大学院へと連続する一貫した教育改革の必要性についても積極的に提言してきました。

学費に依存しない財務構造への転換を進めるためには、学園の皆様と共に学校改革について真摯に検討するとともに、地域社会、産業界、省庁等と継続的な関係性を構築し、連携をさらに深化・拡充していく必要があります。そうした取り組みを通じて、教育・研究活動を通じた社会的価値の創出と、それを支える多様な財源の獲得を進めながら、社会との共創によって支えられる持続可能な大学モデルの構築に向けて学園の皆様と一緒に挑戦していきたいと考えています。

樋爪誠氏の回答

「教育環境の拡充」をめぐるソフト面としては、やはり学費をめぐる対応が中心となります。近時は、学費論議に学友会はじめ学生の皆さんも参加しています。議論への参加(学友会主張の「共創」)という面ではよいことですが、学費を上げるという法人側の最終判断には慎重であり続けるべきだと思います。物価上昇率は高く、自分や家族の家計を案じる人は多いでしょう。また、留学など各種プログラムや課外活動の支援も充実させる必要があります。ハード面では、キャンパスの歴史の違いが、施設や環境格差を起こし得ます。学生から院生までの学校での生活水準の向上のため、とりわけ古い施設の見直しには積極的になるべきです。多様性への対応も必要です。学校にいるのが安全、安心と感じる空間づくりにアイディアを出し続けていくことが肝要でしょう。

松本朗氏の回答

物価高が続く中、一層厳しい生活を過ごさざるを得ない学生の学費をどう考えるか、という点から考えを示します。この点は、当面の本学園の財政構造とも関係があるように思います。R2030学園ビジョンでは学納金(学費)に頼らない財政構造を掲げてきました。そして、事業活動収支に占める学納金の割合が傾向的に下がっていることが報告されています。

一方、物価スライド制のもとではインフレが進んでいますので、学費は傾向的に上昇しています。実は教育活動経費に占める学納金の割合はこの間、一定しています(約73%程度)。しかしながら、教育活動収支はマイナス(赤字)であることが問題視されています。

ここで二つの疑問が出てきます。その第一は、既存学部の教育環境(あるいは奨学金の条件も?)や個人研究費などの研究条件が変わってないのになぜ教育活動収支は赤字になるのだろうか、ということです。物価上昇に対応した学費の値上げが実施され、一定の努力で経費節減(例えば、光熱費など)が報告されているのに、教育活動収支がマイナスになっている理由を明らかにしていく必要があるのではないでしょうか。私たちの研究教育活動とかかわりのないところで赤字が出ているとすれば、その原因は徹底的に明らかにするべきでしょう。

第二に、学納金に頼らない財政構造とは、アメリカの大学のように厚い金融資産を運用し、そこからの収益で教育研究条件を維持していくというモデルを追求するものであると考えます。そのような措置を肯定するかどうか別として、教育機関の根幹である教育研究活動がマイナスに陥っているときに、余裕がある金融資産収益から補填することに問題はないと思います。1,000億円を超える金融資産を運用し、実現している利子配当だけも昨年度は50億円に達しています。含み益はもっと大きくなっているものと考えられます。過去の学費からの収入で積み上がったこのような内部留保をいかに有効に使うかも課題となるでしょう。

次に、長期的な問題で考えてみたいと思います。すでに述べたように、我が国は深刻な少子化社会へと向かっています。一方、むしろ少子化社会だからこそ、高等教育を含めた地域ごとの就学者の割合は、固定化される傾向にあります。そうなると、量的に進学者が少なくなる中で(パイの縮小)、割合は固定化していくのですから、学力的にも、経済的にもより多様な層の就学者を受け入れ、共に学んでいくことになります。「次世代研究大学」の一つの指標が「大学院」の重視であれば、なおさら、家計の学費負担は大きくなり、進学を断念せざるを得ない学生諸君が多数現れてきます。「多様な層との共存」を標ぼうするのであれば、こうした事態にも対処する方策を中長期的に考えていく必要があります。

少子化の中で、それぞれの大学がその特徴を出して競争していくと、ブランドよりも価格競争が前面に出てくることになるでしょう。そうすると、早晩、学費の値上げに上限をかけざるを得ない時期が来るかもしれません。物価上昇率に連動する学費設定は、それなりに意味を持っていたとしても、それに見合う教育環境が提供できなければ、志願者は他大学へと向かいます。まずは、教育環境に見合った学費政策、奨学金政策と、本学の魅力をアピールすることが必要かと思います。

質問4立命館憲章の改正と理念

昨年度、「立命館憲章」の「改正」が行われ、学内外で多くの議論を呼びました。改正の手続きやプロセスについて、どのように評価していますか。また、改正をめぐる議論では「戦争の痛苦」という文言や教学理念「平和と民主主義」についてもさまざまな議論が交わされました。これらの理念について、どのようにお考えですか。

高山茂氏の回答

「立命館憲章」の改正にあたっては、生徒や学生、教職員、卒業生など、多くの皆さんと対面やオンラインを含めて懇談会等を実施させていただき、多様なご意見を丁寧に伺ってきました。そして届いたご意見の一つひとつを大切に受け止めながら、学園の理念や将来像について真摯な議論を重ねたことは、学園に集うすべての皆さんが、憲章の意義を自分ごととして考える非常に大切な機会となるとともに、憲章が現に生きた重みをもつものと改めて深く認識する貴重な経験になりました。このように学園の根幹に関わるテーマについて、多様な声を尊重しながら議論を深めたプロセスは、まさに立命館らしい営みであり、今後の学園運営においても大切に守るべき重要な基盤だと考えています。「平和と民主主義」は立命館が長年受け継がれてきた大切な教学理念であり、これからも私たちの教育や研究、学園運営の揺るぎない土台であり続けます。今回の改正では、第二次世界大戦や学徒出陣などへの反省の念を未来へ届けるため、「戦争の痛苦の体験を踏まえ、歴史を誠実に省みて戦争と暴力を否定する」という表現を明確に盛り込みました。これは過去の歴史への反省を最も重視することを原点としたうえで、あらゆる戦争や暴力を拒み、平和を求め続ける学園の一貫した理念と姿勢をより一層明確に示すものです。私たちは、「平和と民主主義」や「学問研究の自由」などの理念をしっかりと受け継ぎ、多様な人々が互いを尊重し合い、新たな未来を切り拓く学園を目指します。そして何より大切なのは、これらの理念を単なる言葉として掲げるのではなく、日々の授業や研究、学生生活や学校生活のなかで一人ひとりが実践し、具体的な取り組みや行動へとつなげていくことが大切だと考えています。

樋爪誠氏の回答

立命館憲章の改定は、その進行に関する手続の面と、表現の内容の面と両面で問題点が指摘されたと解しています。手続面では、質問7にも関わりますが、早い段階から学内の意見を広く聞くことが必要であったと感じます。内容面は、「戦争の痛苦」(2006年版)の部分が削除対象になったことに不安を覚えた人が多かった点が重要です。私個人は、所信表明でも述べた通り、立命館の歴史に鑑み、反戦、平和は不変かつ普遍の学園の精神だと考えます。今回の改定が表現の変更では済まないという思いが確認できたことをプラスに捉え、立命館憲章の意義を再認識していける機会となればと思います。

松本朗氏の回答

組合の公開質問状のなかでもお答えしたことですが、立命館憲章は「私学立命館の存在理由・来歴・社会的使命を示す」ものであり、今後の羅針盤だと考えられます。本学園に偉大な足跡を残した加藤周一は、「歴史を徹底的に見つめることで、現代や未来の混迷に対してぶれない方向(羅針盤)を指し示した教養人」(『「加藤周一」という羅針盤』(鷲巣力 著 / 岩波書店)と評価されてきました。加藤が「常に『自国の歴史』と『先達たちの生き方』を根底に据え、それを未来を見通す基準として」(同上)きたのは、「過去の経験という客観的なデータ(基準)がなければ、現代の私たちは未来への正しい針路(羅針盤)を誤り、再び戦争や過ちの道へ迷い込んでしまう」という強い危機感があったからです(NHKアーカイブス、あの人に会いたい)。

旧立命館憲章のなかで、「歴史を誠実に見つめ」、「戦争の痛苦の体験を踏まえて」と宣言しているのも、憲章という羅針盤が「過去の歴史(教訓や経験)を基準にして、未来の進むべき正しい方向を見定めるための指針」という意義を持っているからです。戦後、「自由と清新」という建学の精神と共に「平和と民主主義」という教学理念を本学園が打ち立てたのも、憲章で宣言されてきた歴史的経験の反省の上に立って学園の未来を考えるという姿勢、思想があったからではないでしょうか。したがって、「改定」に歴史的経験や教訓の継承を軽視するような方向性が認められるとすれば、断固として賛同できません。

今般の改正は突然に提起され、その手続きのプロセスに奇異なものを感じました。また、改正された憲章は従来の憲章に比べ「簡素化」されたかにみえます。しかしながら、今後は、本学園の先輩たちが歩んできた思想や理念、つまり、歴史を振り返り、未来を見つめる羅針盤としての憲章の根底に息づく思想、理念を、本学に学び働く人々と共有していく仕組みを充実させることが重要だと考えます。

質問5軍事研究とデュアルユース

立命館大学学外交流倫理基準で「軍事開発、人権抑圧など反人類的内容を目的とする研究教育は行わないこと」と定めるなど、本学はこれまで軍事研究を行わない方針を堅持してきました。この方針を今後も堅持するべきとお考えですか。また、近年は技術の高度化に伴い、軍民両用(デュアルユース)技術についても活発な議論が交わされています。宇宙地球フロンティア研究科(仮称)の設置も予定されている今、先端研究と軍事の関係についてどのようにお考えですか。

高山茂氏の回答

立命館大学がこれまで堅持してきた「軍事研究を行わない」という方針を、今後も維持すべきだと考えます。本学は、「平和と民主主義」の教学理念の下、研究成果を人類の福祉と社会の発展に役立てる責任を担っているからです。

一方、近年の先端技術は、民生利用と軍事利用の境界が曖昧になっており、軍民両用(デュアルユース)技術を一律に排除することは、災害対策や気候変動の解明など、社会に貢献する研究を制限する可能性があります。

私は、研究目的、資金提供元、成果の利用方法、研究成果の公開性などを厳格に評価することが必要であると考えます。また、研究者個人に判断を委ねるのではなく、大学として透明性の高い審査体制を整え、学生への研究倫理教育も充実させるべきです。平和を重視する理念を明確に保ちながら、先端研究の社会的責任を大学全体で考え続けることが重要だと考えます。宇宙地球フロンティア研究科(仮称)においても、このような考えにのっとりながら研究・教育を推進すべきであり、軍事利用目的にくみすることは一切許しません。

樋爪誠氏の回答

前段の「学外交流倫理基準」のご指摘の部分の趣旨は、今後も維持されるべきであろうと考えます。これは本質的には質問4でも述べた立命館と平和の問題でもあり、大事な指針といえます。後段の部分で指摘されているデュアルユース技術の問題については、デュアルユースか否かという二分法が難しい上、高い技術と高い軍事力に相関性があるのは歴史上明らかなことであり、技術革新と安全は悩ましい問題ではあります。しかし、大学は率先して安全を害する組織とはなり得ません。むしろ、大学が先頭に立って、産業界や行政とともに、平和で健全な研究の促進を企図していくべきではないでしょうか。

松本朗氏の回答

ご質問にあるように、立命館大学学外交流倫理基準における「軍事開発、人権抑圧など反人類的内容を目的とする研究教育は行わないこと」という規定は堅持するべきであると考えます。この規定を堅持できないということは、上記で述べた立命館憲章の精神、理念を踏みにじることであり、立命館学園の進むべき道を誤らせることになります。一部先端研究がもつデュアルユースの特徴は、十分に承知しているところです。しかながら、立命館学園の理念に基づく開発者の高い倫理性と誇りを学園が守ることによって、一定のしっかりした歯止めを築くことは可能であると考えています。

軍事研究という視点から少し離れて問題を考えてみたいと思います。現在、なぜこれほどまでに軍事研究が注目されるのでしょうか。それは世界の分断が進み、その結果として武力による解決を求める事態が進行しているからです。というより破壊とせん滅の進行といった方が良いかもしれません。その結果、軍事産業が勢いを増しているから、つまりもうかる産業になっているから、軍事研究にみなが注目しています。東と西の対立とか、イデオロギーによる対立なのではなく、力による対立が先鋭化しているがゆえに軍事産業に注目が集まっているわけです。ですから、そもそも対立していたはずの大国同士や、原爆のような強力な武力を持っている国の首脳同士が突然会談し、手を結ぶように見えたり、大国が力の弱い国におおよそ尋常とはいえない自らの都合を押し付けたり、ということが起こっているのです。

こうした時、もともと武力を持たず経済発展をする道を選んできた日本は、その中にまともにかかわれるはずがありません。今や、GDPもイギリスやインドに抜かれ6位に転落することが想定され、経済的にもミドル・パワーの国になっていく日本の選択肢は、ミドル・パワーの国々と結集し、無駄な消耗に終わってしまう軍事産業に手を染めるのではなく、逆に非軍事を貫いてきたことを活かし、経済的、産業的に力をつけ大国と対じすることではないでしょうか。対じするとは、ミドル・パワーの国々との結集で、大国すらも経済的、産業的に頼らざる得ない力をつけていくことです。

本学園の先端研究はもちろんのこと、文化的、政策的、経済的、科学的な教育研究のいずれの分野においても非軍事の方向性で考えるべきでしょう。

質問6多様性・公正性・包摂性(DEI)

本学は、学園ビジョン「R2030」において「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を実現する学園」を学園像の一つに掲げ、改正された憲章にも「立命館は多様性を尊重する」との文言が盛り込まれました。総論として、立命館における多様性・公正性・包摂性(DEI)それぞれについて、現状をどう捉え、今後どのような姿勢を取るべきと考えますか。

高山茂氏の回答

立命館学園には、国籍や文化、ジェンダー、障害の有無、経済状況、ライフコースなど、多様な背景を持つ児童・生徒・学生・院生・教職員が集っています。しかし、多様な人々が存在すること自体が、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の実現ではありません。私は現在の立命館について、「ダイバーシティ」には一定の進展が見られる一方で、一人ひとりが置かれた状況や背景の違いに応じて参加や成長の機会を保障する「エクイティ」と、誰もが安心して参加し、その声が尊重され、学園の意思決定にも生かされる「インクルージョン」については、さらに取り組みを深める必要があると考えています。

こうした認識のもと、学内外のさまざまな立場の方々を招いた対話や交流の機会を広げるとともに、学園構成員の皆さんとともに学び、考える場を積極的に創出していきます。その際、これまで声が届きにくかった人々の意見にも丁寧に耳を傾けられる場づくりを重視します。

また、DE&Iは特定の属性を持つ人だけの課題ではありません。私たちは誰もが人生のさまざまなライフイベントを経験し、時に困難や生きづらさに直面する可能性があります。だからこそ、一人ひとりの尊厳やニーズを尊重し、誰もが安心して学び、働き、自らの力を発揮できる環境を整えることが求められます。そのためには、構成員が学園の意思決定に参加できる制度的基盤が欠かせません。立命館が培ってきた全構成員自治の伝統は、多様な構成員が対等な立場で対話し、よりよい学園をともにつくるための重要な土台です。児童・生徒・学生・院生(留学生/国際学生を含む)をはじめ、多様な構成員の声を反映できる仕組みや制度を整えていきたいと思います。

DE&Iの実現は、制度を整えるだけでも、個人の善意に依存するだけでも達成できません。「多様性を尊重する学園とは何か」「公正な参加とは何か」「誰もが安心して居場所を見いだせる学園とは何か」を構成員とともに問い続け、違いを尊重しながら、ともに学び、ともに学園をつくっていく。それこそが、これからの立命館に求められる姿勢だと考えています。

樋爪誠氏の回答

私の専門は、ダイバーシティを前提とするような領域でありますので、以前から関心は高いです。立命館は、異文化理解やジェンダーを中心に、ダイバーシティの認識の浸透には注力してきました。他方、数値的にそれが成功しているといえるかについては、なお、発展途上のところはあると考えます。ただ、自分の専門の経験からもインクルージョンの実践は焦らないことが大事です。そこに、ダイバーシティを「幅のある尺度」で捉えるエクイティの施策の推進にも取り組むことになりますが、個人的には賛成です。ただ、エクイティは相互理解が不可欠になると思いますので、立命館の伝統であるみんなで話し合う場を介して、着実に浸透させていくべきでしょう。

松本朗氏の回答

これについても組合の公開質問状に同様の趣旨の質問があり回答していますので、同じような内容の回答をさせてください。

本学の当該ホームページ「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進にかかる基本理念と基本方針」を見たところ、「建学の精神「自由と清新」のもとに醸成されてきた立命館の組織文化には、自他の多様性を尊重し、 新しいものから学ぶ「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」の精神があります」と指摘されています。しかしながら、エクイティ(公平性)の根幹にあるはずの民主主義の指摘がありません。民主主義は、総長声明の中にある「他者の人権を尊重できる人材育成」の基本に据えるべき概念だと考えます。

アメリカの経済学者のロバートライシュや、今日の格差社会を指摘し一躍注目を浴びたトマ・ピケティは、経済的格差が極限まで進むと、富裕層が政治をコントロールするようになり、「1人1票」の民主主義が実質的に機能しなくなると主張し、民主主義を守るためには、社会に「公平(Equity)」な分配システムを再構築しなければならないという趣旨の主張をしています。ハーバード大学のマイケル・サンデルも、民主主義が正常に機能するためには、市場の論理にすべてを委ねるのではなく、社会的な公平性や、異なる背景を持つ市民が共に議論できる共有スペース(公共性)が必要である、と指摘しています。

このように考えてくると、本学の教学の理念「平和と民主主義」を貫く根幹にこそ「公平」があるのではないかと考えます。本学園という組織の中で「公平」をどのように具体化していくかをもっと考えていきたいと思います。総長声明では、「人権」意識の醸成とともに「構成員がその個性と能力を発揮できる教育・研究・就労環境等の整備に努めます」としています。これが「公平」の一つの内容であるとすればその点の追及をまずは考えていくべきでしょう。

ところで、先に示したマイケル・サンデルは「能力主義(メリトクラシー)」が行き過ぎると、勝者が自らの努力だけで成功したと錯覚し、敗者を自己責任として切り捨てるため、社会の連帯が壊れる」と述べています。肝に銘じたい指摘です。

質問7学園自治・学問の自由

立命館では、「立命館民主主義」の伝統の下、「全構成員自治」の原則にのっとった学園の自治が行われています。こうした学内民主主義のあり方や学問の自由(大学の自治)の担保について、現状をどう考え、今後どのような姿勢を取るべきと考えますか。

高山茂氏の回答

大学入学から40年以上、立命館大学に在籍している私にとって、「全構成員自治」は極めて大切なものだと思っています。社会に対して胸を張って誇ることができる立命館での学園運営の姿であります。大学の自治は、概して教員による自治を指す場合が多いですが、立命館大学の場合は、教職員に学生、院生も加えた「全構成員自治」であることが特徴です。学生、院生にとっては、「与えられる大学」ではなく、「自分たちの手でより良くする大学」ための学園共創の制度であると考えます。学生、院生と教職員が対等な立場でお互いを尊重し合い、対話を通じて大学を創造することは、他の大学には見られない立命館独自の素晴らしい文化であり、学園の皆様方すべてによる認識と共有、継承により、未来に向かって一緒に守っていかねばならない姿であると思っています。

樋爪誠氏の回答

学内民主主義のあり方や学問の自由の担保について、まず、現状については、伝統は守られてきていると認識しています。ただし、検討すべき課題の総量が多く、丁寧な議論が、逆に、疲労を呼ぶような側面もあるとみています。学生だけでなく、教職員も多様化しており、大学のカリキュラムやプログラムも複雑です。国内外の動静は急を極めていますし、文教政策でも次々と新しい取り組みが打ち出されています。そういう意味では、総量オーバーになるのは、ある種必然な部分もあります。しかし、丁寧な議論を放棄することはできないので、課題の取捨選択が重要となります。その意味では、全学協議会のような各種協議会システムを、今後もしっかりと運営していくことが、採るべき方向性と考えます。

松本朗氏の回答

大学の内外の状況を見るにつけ、大学の自治、民主主義、学問の自由が岐路に立たされていることを日々感じます。他方で、こころある学園の人々によって本学園では、本来の大学の在り方を守ろうとする力がなんとか働いていることには頼もしく感じています。しかしながら、社会情勢の変化が学園を構成する人々の意識に侵食するようになり、結果として「立命館憲章」にうたわれた精神が失われていくことを恐れます。そうしたなかで、ことあるごとに、多くの学園の人々と今問題を考える場を設けていくことが当面、やるべきことかと考えています。

民主主義を守り、機能させるには、全構成員が積極的に参加し、議論し、合意を得ていくことが必要で、それには労力も時間もかかります。しかし、その労力と時間をかけた先にあるより良い学園生活、立命館らしい民主主義を目指して、今後も学生、教職員、校友、さらには学外関係者を含め、すべての力を結集していくように努力を続けたいと考えています。